ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

難しい判断はお客様に選んでもらうべきだという姿勢がクレームを未然に防ぐというお話

選ぶのはお客様であり、従業員ではない。

お客様にとって何がベストな選択なのか?そう思い行動に移す。しかし、その判断が間違った悲劇を生むことがあります。

つまり、お客様にとって満足のいく選択ではなくて、不満足な選択を従業員がしてしまうことです。

営業・販売・サービス業とすべてのお客様に接する仕事において、とても大事なことを今から書きたいと思います。

順番をぬかされたお客様の大きな怒り

「オイ、順番が違うんじゃねぇか?」と

お客様の怒鳴り声が店内に響きました。ご年配の男性のお客様です。レジ担当の女性のパートさんに突っかかるように怒鳴るおじさんでした。

「お前じゃ話にならん、店長を出せ」

その日、店長はお休みでした。代わりに対応したのが私。どういうことかお客様に話を聞きました。

理由はお客様の方が先にレジに並んでいたのに、違うお客様に順番を抜かされたということでした。レジでのクレームでたまにあることですが、この順番を抜かされたというケースはいろいろなパターンがあります。

お客様の勘違いもあるし、従業員の誘導ミスもあります。で、今回のパターンは従業員の誘導ミスでした。

事のいきさつはこういうことです。

まずレジが大きく混みあいました。

そして空いているレジを開けることになりました。

その開けるレジを担当するパートさんは、目の前のレジの2番目に待っているお客様を誘導するのではなく、3番目に待っているお客様を誘導しました。

なぜこのようなことをしたのでしょうか?パートさんの話によると、その2番目のお客様のお会計はすぐに始まると思ったそうです。

なぜなら1番目に並んでいるお客様の会計は終わりかけていたからです。しかし、これはパートさんの勝手な思い込みによるものでした。

しかし、実際は1番目のお客様は、723円のお会計に千円札を出していたのですが、やっぱり細かいものも出すということになり、そうこうしているうちに時間がかかってしまったのです。

そして、パートさんが誘導した3番目のお客様はジュースを3本だけのお会計だったため、すぐにお会計が終わってしまいました。しかし、横のレジのお客様は細かいお金も出すことに手間取っていました。

そうこうしているうちに別のお客様が問題のパートさんのレジに並び、その人の方が先にレジが終わるという形になってしまいました。

結局、問題のお客様は2番目に並んでいたにも関わらず、後から来たお客様2組に先を越された形になりました。

そして、順番を抜かされたことに腹を立てたお客様は、「こるぁ、お前、頭がおかしいのか?」とパートさんにクレームを入れてきました。

「あんな奴にレジをさせるな」のお客様

そして、私が対応して、「大変申し訳ございません」と謝りましたが・・・

「あんな奴にレジをさせるな」

「今度、あのおばはんがレジしていたら本社に言うからな」

など、到底受け入れられないことを言ってきました。限られた人員で運営している店でパートさんをレジから外すのはとても難しい問題です。

なので、とにかく「今後は気を付けます」「申し訳ございません」の平謝りで、なんとか、お客様もしぶしぶ、納得されたのかどうか分からない表情で帰っていきました。

良かれと思っての行動である

パートさんはとても、大きく反省をしていました。「完全に私の勝手な判断ミスです」と言ってきました。

これらの状況を休みの店長に報告しました。すると店長は・・・

「こんなこと言ったらなんだけど、運が悪かったかもしれないね」

「それほど悪いことをしているわけではないのに」

とパートさんを気の毒に思うようなことを言ってきました。

なぜ、店長は、このようなことを言ったのか?それは、パートさんの行動は良かれと思っての行動だったからです。

パートさんを、あまり責められない

2番目に並んでいたその問題のお客様のお会計はすぐに始まるだろう。そこでわざわざ別のレジに誘導し、来てもらうと逆に3番目のお客様のお会計が先になってしまうのではないかと思ったのです。

と言うことは、もし、今回のケースが2番目のお客様を誘導していて、3番目のお客差の方が先にお会計が始まったとしたら、また違ったクレームになるのではないか?と言うことです。

なので、店長は「難しい問題ですね」と言いました。こういった問題には、パートさんを、あまり責められないということです。

さらに、パートさんは、お客様に怒られているときも、一切反論せずに「申し訳ございません」の姿勢を貫いていました。

ここも大事です。下手に「順番がすぐに来ると思ったからです」などと説明したらより一層お客様を怒らせることにつながります。

私の見解は若干、店長と違いました。

だから、今回に関して、店長は電話口で、「いや~~こういった、こっちが先、あっちが後のクレームがあるたびに思うけど、難しいですよね」と言ってきました。

私も同感です。しかし、私の見解は若干違いました。店長は当時あまりレジに入らなかったので、そういうケースについては若干私の方が経験値があったのかもしれません。

なので店長に・・・

「確かに難しい問題ですね。僕だったらどうするか考えたんですけど、2番目のお客様を誘導すると思います」

「でも、誘導する前に、『横のレジを開けますけど、どうしましょ?』とお伺いを立てます」

「すると、たいていのお客様は、『いや、もうすぐ会計が始まるからこのままのレジでいいよ』と言ってくれるか、それとも、『じゃあ、そっちに回ります』と言ってくれるかになると思います」

と答えました。つまり、どっちに行った方が早く自分の番がくるかという難しい判断はお客様に委ねるということです。

急がねばと焦る気持ちから判断ミスをする。

このことはパートさんにもアドバイスしました。しかし、「それほどパートさんの行動を責められない」という店長の考えには私も同感でした。

レジが大きく混みあい、待っているお客様もイライラしているし、従業員も忙しくてソワソワしている中で、どうしても、急いで次の方を誘導しなきゃと思ってしまいます。

そんな時に瞬時に、順番を考え、スムーズに別のレジにお回りいただくにはどうしたらいいのか?と判断する中で起きた判断ミスです。

悪気はなかったことです。さらに、パートさんはお客様に、こっぴどく怒られて大きく反省していました。

焦っていても大事なことを見失ってはいけない。

パートさんの行動は、どうすれば一番、お客様の順番通りに事が進むか?を考えた上での行動でした。

そう思うと、パートさんをあまり責められないと言う気持ちが生まれましたが、パートさんは大事なことを見落としていました。

レジが混んでいる。早くしなきゃの焦りから並んでいる人の気持ちを見失っていました。確かに、誘導したら逆に遅くなる可能性もある状況ではあるものの、それは絶対ではありません。

勝手に判断すると痛い目に遭います。難しい判断は自分ではなくお客様に決めてもらうほうが後でやっかいな問題にならずに済みます。

そして、そのお客様の判断で、たとえ後から来たお客様の方がお会計が早く済んだとしても、ここまで怒られることはなかったでしょう。まぁ、少しぐらいは嫌味を言われるかもしれませんが(汗)。

忙しい時には、どうしても焦ってしまうので難しい問題ですけどね。それでも、今回私が一番言いたかったことは、「難しい判断は出来るだけお客様にしてもらった方がいい」と言うことです。

これは、クレームを未然に防ぐ意味で、とても大事なことだと思うのです。

親権を失っても、親として出来ることは何か?の気持ちは持ち続けるべきだと思う

ごはんも喉を通らない子供と会えない喪失感

離婚して、妻が子供を連れて出ていった。子供が使っていたベビーベッド・ベビーカー・小さな服などはそのまま置いてある。

それを見るたびに胸を突き刺す喪失感。悪いのは自分。借金・浮気・夫婦喧嘩。今更悔やんでも仕方がない。

子供に罪はない。悪いことをした。これからあの子は自分がいなくても大丈夫だろうか?心配でごはんも喉を通らない。一人で食べるごはん。寂しくて味気ない。

私の周囲にいる離婚して子供と会えなくなった父親の苦しみです。私にも小学生の娘がいますので、想像しただけで、さぞ辛いだろうと思います。

親しい友人のこのような姿を見るたびに、悲しくなります。どうしたらいいの?と途方に暮れる姿です。

子供と会うべきか?その頻度はどうすべきか?

再婚した後の関係はどうなる?

養育費はどうする?誕生日プレゼント・クリスマスプレゼントはどうする?
考えるべきことは山積みです。

もう一度やり直したい。

妻から離婚を切り出された。理由は?ギャンブルによる借金・浮気・性格の不一致。悪いのは自分のようだ。

しかし、気持ちを入れ替えるから信じてほしい。「なぜなんだ?」「どうしてなんだ?」「あれほど愛し合って結婚した仲なのに?」と訴える。しかし、どんなに必死で訴えても妻の気持ちは変わらない。引き下がるしかない。

あの頃に戻って、もう一度やり直したい。ギャンブルも浮気も喧嘩もしない。今のこの苦しみを予想できたのなら、同じ過ちはしない。

私の周囲でよく聞く「もう一度やり直したい父親の心の苦しみです。しかし、離婚後の復縁は想像以上に難しいことです。

離婚する時はそれなりの覚悟を決めてるはずです。それをもう一度やり直す気持ちに切り替えることを想像すれば分かることだと思います。

特に女性は気持ちがなくなれば、あっさりしていて次に行くのも早い。だから少しでも気持ちが残ってるうちに男性は手を打たないと復縁は難しいと言われています。

しかし、その難しいと言われる復縁を実現した友人がいます。今回はその友人がいかにして復縁を実現させたかをご紹介します。

そして「離れて暮らす子供と、どう関係をしていったらいいのか?」について、私が気付かされたことを書きたいと思います。

離婚の原因は業務上横領。

3年前、以前の職場で仲良くなった男から喫茶店で話を聞いてほしいと電話がありました。会うと、彼は奥さんから別れ話を切り出され、とてもショックでどうしていいか分からないと話してきました。

原因は彼が業務上横領で200万円の借金を背負ったことです。彼は高額な健康食品を年配の方に販売する会社に勤めていました。そして高額のため何年も商品代金が未払いのお客様がいたそうです。

ここに目をつけた彼は未払いのお客様の所に出向き、代金を回収してそのことを会社に報告せずに自分のものにしたそうです。彼はそれをする前に私に電話をしてきたことがありました。

私は「絶対にばれるから止めた方がいい」と言いました。しかし、彼はパチンコで借金があり、正常な考えが出来なかったようでやってしまいました。

ある日、会社にばれ、先輩たちに取り囲まれ、言葉で袋叩きにされたそうです。そのことを奥さんに言うと、「もう別れます」とたった一人の娘さんを連れて出て行かれました。

彼はそれまで何度もパチンコで借金を繰り返し、そのたびに奥さんに貯金を崩してもらい返済をしていました。そんな彼に愛想を尽かしたのです。

彼に残されたのは200万円の借金。そして毎月の別れた奥さんに支払う養育費です。
奥さんの苦しい気持ちを理解してほしい

喫茶店で彼からその話を聞いた時、私は思いました。あれほど絶対ばれるからするなと言ってた事をするとは何を考えてるんだと。しかし、やってしまったものは取り返しがつきません。

200万円の借金の返済と毎月の養育費の支払いは、どんなことがあってもした方がいいと彼に言いました。そして私は奥さんが彼のことをとても愛していたことを知っていました。

皆で飲みに行った時も奥さんはとても彼を心配して何度も電話をかけてくる人でした。私も2回ほど会ったことがあります。奥さんが離婚を決意したのは相当な覚悟があっての事だろうと思います。その奥さんの苦しい気持ちを理解してほしいと言いました。

今の大きく反省している気持ちを失わないでほしい

現在の日本で、離婚後の母子家庭でまともに養育費を受け取っているのは約2割だと言われています。最初は払っていても月日が経つにつれて払わなくなります。

そんな男の話を良く聞きます。絶対にそうならないでほしい。今の大きく反省をしている気持ちを忘れないでほしいと言いました。

母子家庭はどれだけ子供につらい思いをさせるか?

私は小さい頃に両親が離婚をし、母親に育てられ、母子家庭の辛さをとても良く知っています。子供にとって、どれだけ長い期間辛い思いをさせるのかを彼に言いました。

たとえ別れていても、子供にとってはかけがえのない父親です。父親は父親らしくいてほしい。離れていても子供はそう思っています。

復縁を考えても相手の気持ちはどうする事も出来ない。でも父親として子供を思う気持ちは持ち続けるべきです。ギャンブルが好きな気持ちは分かります。でも、もっと娘さんが大好きじゃないのか?と彼に話しました。

その後、何度か「久しぶりです」という電話が彼からありましたが、そのうちお互いに連絡を取る関係でなくなりましたが、3年がたち、彼から久しぶりの連絡がありました。

本気で自分を変える努力。

彼は新しい仕事を見つけ、毎月、遅れることなく養育費を支払い続けたそうです。さらに私が関心したのは2年目に入り自ら養育費の額を1万円増やし、3年目はさらに1万円増やして払い続けたそうです。しかもギャンブルはやめたそうです。

さらに娘さんの誕生日にはプレゼントを送ったりもしたそうです。そんな彼に別れた奥さんから、「娘が会いたがってる」と連絡があり、会うことになりました。

久しぶりの娘との再会に彼は大変喜び、娘さんも彼に会えたことをとても喜んでくれたそうです。奥さんは実家がクリーニング店を営んでいて、そこを手伝ったり、近所のスーパーでアルバイトをしたりで生活をしていたそうです

そんな奥さんは彼に言いました。「もう一度やり直しませんか?」と。

嬉しいことですが結果にだけ目を向けないでほしい

彼は嬉しさのあまり、泣きそうになり、でも娘に涙を見せたくない気持ちがあり、トイレに行き、思いっきり涙を流したそうです。

3年ぶりに彼からこんな嬉しい電話があり、私も嬉しくて仕方がありませんでした。一旦別れた妻が帰ってくることはなかなかあることではありません。

彼と同じことをしても離婚した妻が帰ってくることは少ないと私は思います。復縁という結果にだけ目を向けて行動をしても失敗することが多いと思います。

駄目な自分を変える努力、そして離れて暮らす子供と元妻を思いやる気持ち、父親は父親でいてほしいという子供の気持ちに答える努力、たとえ復縁が出来なくても人として持ち続けることに価値があります。

親権を失っても親としての愛情を失ってはいけないと思うのです。

子供と会えない。どうしたらいい?

今回のケースは復縁というハッピーエンドになったケースですが、ほとんどの場合は復縁を実現できないままに終わるのではないでしょうか?

離婚して、子供と生き別れた。「二度と会えないのではないか?」と思うと悲しくなるでしょうね。でも、会えない辛さは子供も同じです。

私も、小学生の頃、両親が離婚をして、何度も心の中で「もう一度父に戻ってきてほしい」と願いましたが、結局は20年以上も会えずに終わりました。

父が亡くなったことを後で知り、とても大きな後悔をしました。なぜ生きている間に会いに行かなかったんだ?と。

離れて暮らしていても、親は親であり、子は子だと思います。その気持ちがどちらかにある限り、きっと子供から会いに来てくれると思います。

それは、生きている間でないかもしれません。私は父に生きている間、会いに行けませんでした。会いに行ったのは、亡くなってから後のお墓の前です。

愛されていると感じているから会いに行ったのです。だから、親権を失っても、親として出来ることは何か?気持ちは忘れるべきではないと思います。

生きている間に会えなかった父親であっても、その最後を知った時、子供は父の生前の人柄を知りたくなります。その時に恥ずかしくない生き方をする。それが親としての責任です。

遺産を持ち逃げされたけど証拠がない。「一生許さない」と言う気持ちがお互いの人生をめちゃくちゃにする

血を分けた兄弟で相続争いをする愚かさ

第三者の目から見て、首をかしげたくなる事件の一つが、親の遺産をめぐる兄弟の争いがもとで起きる事件です。そのようなニュースを見るたびに悲しくなります。

親が亡くなったことを悲しむ気持ちよりも、頭の中は金・金・金になっている姿におぞましいものを感じます。

そもそも自分が稼いだ金ではないのに、「俺の金」「俺の金」と、まるでミステリー小説や連続テレビドラマのようなドロドロの争いにもつれこむ。

それまで仲の良かった兄弟が、「一生許さない」「あいつの人生をめちゃくちゃにしてやる」と醜い争いをする。

そして、放火・殺人事件まで発展し世間を騒がせる。テレビのニュースキャスターもコメントで、「天国の父親も、この兄弟の争いを見てどう思うでしょうね?」としめくくります。

人の人生をめちゃくちゃにしたら必ず自分の人生もめちゃくちゃになる。因果応報の悲しい結末を迎えます。

相続争いで身内を殺害、それでも遺産は貰えるのか?

故意に他の相続人を殺害・または殺害をしようとしたために、刑に処せられた場合は相続欠陥事由になるので相続人からはずされます。

「もとは、もらえるお金に不満があったわけでしょ?」
「そんなことをしたら、1円の金も入らずに人生を棒にふるのに?」
「自分にとっていいことは何もないのに、なぜ分からない?」

親の遺産を巡る兄弟間の事件を見るたびに、お金の魔力の恐ろしさを感じさせられます。兄弟仲良く分け合うことがなぜ出来ないのでしょうか?

「一生許さない」「一生恨んでやる」「この恨むは絶対に晴らしてやる」兄弟間の確執が事件の引き金になります。

「元はと言えばお金に不満があった訳でしょ?そんなことをしたら1円も入ってこなくなるのに?」と多くの方が疑問に思います。

相続争いを避けた私

私は、子供時代に、ニューズでこのような遺産トラブルの兄弟間の事件を見て、「もしかして、この人たちってバカなの?」と思いました。

お金なんて、自分で稼いだらいいんじゃないの?遺産なんて、所詮は棚からぼた餅のようなもので、そんなに期待しなくてもいいんじゃないの?その方が男らしいのに?

そう思っていました。しかし、実際に私も、父親の財産を相続する時、兄を疑ったことがあります。ほんの少しですが、やはり、相続の場では人の感情は一筋縄ではいかないようです。

兄の弁護士に、遺産分割協議書を持ってきてもらったとき、私は兄を疑いました。
「兄は自分に都合のいいように遺産分割協議書を作成したのではないか?」と。

弁護士は、「どうします?異議申し立てをすることも出来ますよ」と言いました。意義申し立てをするということは兄と裁判で戦うことを意味します。

私は、「これでよしとします」と争いを避けました。

なぜ相続争いが起きるのか?

相続争いを避けた私ですが、心の中にはどろどろとした醜い感情が生まれていました。あれほど子供時代に「親が亡くなった時に大人は、金・金・金って醜いよな?」と思っていたのに自分の中にも、金・金・金の感情が生まれたのです。

そして、一つの疑問が解けました。どうして相続は争続と言う言葉で表現されるように、争いが深刻になるのだろう?その大きな原因の一つが、相手への疑いだと思いました。

相手が自分に都合のいいように遺産を相続しようとしている。絶対になにかを隠しているはずだ。疑いの気持ちが相手への怒りに発展します。

相続できる親の財産は、家・土地・預金と隠しようのない財産以外に、家に置いてある金目の物などは持ち逃げされる恐れがあります。

「もしかして持ち逃げしているのではないか?」と相手を疑う気持ちが生まれます。そして、この持ち逃げによる兄弟の争いは様々な相続問題の中でも、もっとも身近で耳にする話だと思います。

「兄に父の遺産を持ち逃げされた」
「姉に母の遺産を持ち逃げされた」

悔しい。でも証拠も何もない。許せない。そんな声をよく聞きます。しかし、その気持ちは生じて仕方がないものだと思います。人生はきれい事だけでは済まされません。

しかし、証拠も何もない過去の事情をいつまでも引きずるのは良くありません。どこかで気持ちを納得させることが必要でしょう。

兄の遺産分割協議書に疑いをもちつつ、私が争いをさけ、「これで良し」としたのにはある話が教訓として頭の中にあったからです。それは・・・

自分一人だけが幸せになろうとするとろくでもない人生になる

古来からそのようなことに気づかされるお話が無数に存在します。「自分だけが・・・」「自分だけでも・・・」と思う気持ち。この気持ちが人間の中にある以上この手の話はなくなることはないでしょう。

私は現在、食品スーパーに勤めています。先日、以前うちでパートをしていた方の家に遊びに行きました。そこで聞いた話に考えさせられました。

姉は父親のお金を全て持ち去りました。

今回の話をしてくれたパートさんは、若いころ旦那さんと別れ、女手一つで息子さんと娘さんを育ててきました。そんな彼女にはたった一人の姉妹である姉がいました。

姉は生涯独身で、とにかくお金に執着心のある方だったそうです。そんな姉妹は母親を早くから亡くし、父親だけに育てられてきました。父親は働き者でたくさんの貯金をしてたそうです。

姉妹が40代後半の頃、父親が病に倒れ、あとわずかの命と宣告されたころ、姉は父親の家から全てのお金を妹に何も言わずに持って帰ったそうです。

残された家は売却して姉妹で分けることになりました。

妹は大変腹が立ったそうです。裁判して姉と戦うことも考えたのですがそうすることはしませんでした。理由はその年、結婚する予定の娘さんがいて、姉にも娘の結婚式に気持ち良く出席してもらいたかったからです。

血のつながった姉妹は姉しかいない。裁判をおこしたら、たった一人の姉との仲は一生決裂する。そう思い我慢したそうです。そして父親の残した財産は古い家一軒だけになりました。

父親の家だけはお金と違って、姉が独り占めできません。売却して姉と分けることになりました。その手続きの時、姉は妹にこう言ったそうです。

「あんたさえいなければ」

この言葉を聞いて妹はとてもショックを感じたそうです。父親のお金を全てもって帰り、さらに家まで自分一人のものにしたい。その気持ちがとても悲しかったそうです。
遊んで暮らせるお金が手に入り10年後、姉は変わりました。

父親の残したお金はかなりの額だったそうです。姉は仕事を辞め、マンションを買い、毎日飲み歩く生活を始めたそうです。そんな生活が10年ほど続いたころから姉の状態は変わってきたそうです。

認知症の発症です。妹と会う約束をしても、約束を忘れ、電車でどこかに行くと、なかなか帰り方が分からない。

そんな状態になったそうです。さらに1日に何件も飲み屋をはしごをし、酔いつぶれて病院に搬送されることがたびたび出てきたそうです。

妹は姉に「お酒は控えた方がいい」と言うと「あんたにそんなことを言われる筋合いはない」と返されたそうです。

年を重ねても綺麗な姉は60代の男性と内縁関係になりました。

そんな姉は独身でしたが飲み屋で知り合った男性と一緒に住むようになったそうです。その男性と飲み歩いたり、旅行に行ったりするお金は全て姉が支払ったそうです。

男性は孫を連れて姉の所に遊びにくることもあり、毎回その孫たちにおこずかいを渡してたそうですが、ある日、姉にその孫たちの会話が聞こえてきたそうです。「まだかな?まだでないのかな?」

そして、おこずかいをあげたとたん「有難う」と言って帰るのです。姉は「しょせん他人の子供だから仕方ない」と妹に愚痴をこぼしたそうです。

姉が体を壊し入院中、姉がマンションのどこかに隠していたお金が欲しいのか、男性は姉のマンションをあちこち探し回る行動をしたそうです、しかし見つからずにあきらめて姿を消しました。

しかし、姉が退院し、まだお金を持っていることを知ると男性は姉のところに帰ってきたそうです。姉は自分のところに男が戻ってきたと喜んだそうです。

その頃になると姉の認知症はずいぶん進行していました。近所の人が亡くなったと聞かされた時にその家族に向かってニコニコと「じゃあまた遊びにおいでね」と、とんちんかんな事を言ったり、妹の名前がなかなか口から出てこなかったりしたそうです。

姉の姿が情けなくなりました。

妹は父親のお金をすべて持ち去った姉が許せませんでしたが、同時にそんな姉の姿が情けなくなり、どうしてもその男と別れさせたくなりました。そしてまだ父親の財産が残ってるうちに、姉が老後を安らかに暮らせる施設に入ってもらいたくなりました。

しかし、妹でも姉を無理やり施設に入れることはできません。姉の内縁の夫が「自分が面倒をみる」と言って聞かなかったそうです。そして、とうとうそのつけが姉にまわってきました。姉は病に倒れ病院で寝たきりの生活をするようになりました。

父親の家から持ち去ったお金は全てなくなっていました。

意識不明の重体で、救急車は男性が呼んだそうです。何日か昏睡状態で、妹も何日も病院にお見舞いに行き、話かけたけれど、目をつぶったままで何の反応もありませんでした。

それでも何日か通い話しかけてると、ある日いきなり姉は目をパッと開いてじろっと妹を見たそうです。この時は大変ビックリしたそうです。

その後、姉は食事を鼻からチューブでとるようになり、簡単な言葉を話すようになったそうですが、それ以上容体は良くなることなく息をひきとりました。

その後、姉の残した財産は妹が相続するのですが、あれほど多くあったであろう父親からのお金は全て無くなっていたそうです。それでもマンションが残っていたため、そのマンションを売ることは出来たそうです。

姉のお金は男性が持ち逃げしたのであろう。しかし、その男性は姉のすぐ後に病に倒れそのまま息を引き取ったそうです。

姉と妹の人生を分けたものとは?

「あんたさえいなければ」と言った姉に天罰が当たったんだと妹は話しました。 

まとまったお金が手に入り、毎日飲み歩きお金も健康も失った姉と、親からの財産はほとんど受け取れず、女手一つで子供たちを育て、苦労に苦労を重ねた妹の話。

この話を聞いて、分かち合うべきであるお金を独り占めにして、自分だけが幸せになろうとする。なかなかそんなに上手くいくものじゃないとつくづく思いました。

持ち逃げした人が不幸になる確率は宝くじで大当たりした人が不幸になる確率と似たようなもの?

いかがでしたでしょうか?今回のお話は、持ち逃げされたお金をどうするか?と言ったお話ではありません。

持ち逃げしたことを相手に認めさせるのは大変難しいでしょう。裁判で争い、それまでの関係はドロドロとしたものに一変します。

確かに、自分がもらえるべきお金を持ち逃げされた時、なんとかして取り戻したいと思うのは普通だと思います。

しかし、子供のころに、そんな自分を想像できたでしょうか?兄弟を恨む自分を想像できたでしょうか?

世の中はきれいごとだけでは済まされない。大人になってから知る「人はお金がからむと人格が変わることがある」という残念な事実。

しかし、いつまでも引きずるのは問題です。どこかで納得しなければいけません。その納得に至る考えの一つとして今回のお話を紹介しました。

持ち逃げはされた方もした方も不孝だということです。両者ともにいいことはありません。持ち逃げに気付いた時の精神的なショックはされた人の方が大きいでしょう。

しかし、長い目で見ればどうでしょうか?お金は自分の才覚で稼ぐものです。
宝くじで1億円当たった人の多くが不幸になると言われるように、多額の遺産を持ち逃げした人も不幸になるのではないでしょうか?

一生許さない?心配しなくても大丈夫でしょう。親からいただいたものは金ではなく、人生を前向きに生きる力です。