ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

飲食業で「味・値段・場所は関係ない」と言う人は凡人ではなく豪傑であるという説

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弟子入りした居酒屋はとんでもない戦場でした。

サラリーマンを辞めて居酒屋を経営したい。しかし何のノウハウも経験もない。それならフランチャイズっていいんじゃないか?

最初からノウハウが用意されているから私にもできそうだし・・・

そう思い応募した居酒屋のフランチャイズ加盟店です。そこで最初に修業先として紹介された店はたった3人で1日30万円を売り上げる、目が回るような戦場でした。どんどんたまっていく洗い物と、どんどんたまっていくオーダーに泣きそうになりました。

意味が分からないほどの厳しさに逃げ出したくなりました。

簡単に独立できると甘い考えを持ってきた私の根性をたたき直すため店長は「やる気がないなら帰れ」と開店前に椅子を蹴飛ばしたりと過激な指導をしてきました。

営業中も「オイ、お前何でこんなことをしたんだ?」「仕事をなめてるのか?」「お前は言っても分からない赤ちゃんか?」とぼろくそに叱られ心の底から逃げたくなりました。

次から次にお店が入れ替わる激戦地区での勝ち組

師匠の店は、田舎の繁華街と言った感じの場所にありました。店の数はそこそこ多くありましたが、賃料も高く、競争も激しいため、流行ってる店とそうでない店の差が大きく、入れ替わりがとても激しい地域でした。

お客さんの目当ては店長でした。

店長は普段店に居ません。どこに居てるかと言うと、近所のあちらこちらの店に飲み歩いていました。しかし、常連の方が来られたら、従業員が店長に電話をします。するとすぐに店長は戻ってきて常連さんと話し込むんです。

何でこんな威圧感のある店長にみんな会いに来るのか?

プロレスラーのような大きな体格と威圧感のある風貌で最初会う人はほとんど「え?この人何者?」と思うでしょう。そんな店長が客として来店した自分に礼儀正しく挨拶に来る。ここに人を惹きつける秘訣があるように思いました。

店を従業員に任せてスナックに飲みに行く師匠

しかし夜の0時を回ると店に戻ってきます。すると続々とあちらこちらの水商売のお姉さん方が来店されるのです。近隣の店が0時を過ぎ、お客さんも少なく閉店する中で師匠の店だけが満席になりました。

客が客を呼ぶ

店長がスナックを飲み歩き、そこのママさんがお客さんを連れて店に食べに来てくれる。俗にいうアフターって言う営業ですね。

スナックに行くお金を考えると割に合わないと私は思います。しかし、それ以上に店が活気付くんです。

0時を過ぎ、閉店の2時までずっとお客さんがひっきりなしに来店されました。水商売のお姉さんとそのお客さん。近隣の店の従業員が集まります。近隣のお店同士の社交場のような雰囲気がありました。

近隣の店舗から山のような花束が贈られてくる店長の誕生日

店の開店記念日や、店長の誕生日には、ビックリするような数のお祝いの花が店頭を埋め尽くしました。それは師匠のこの地域での絶対的な存在感を表すように見えました。

この人を敵に回したら近所で商売がしにくくなるという空気がありました。

ある日、近所のスナックのママさんが、泣きそうな表情で師匠に謝りに来ました。師匠は席について3分で「もう帰る」と言ったそうです。ママさんは「えっ何?」とパニックになり師匠の所にやってきました。

原因は女性従業員が乾杯の時にお客さんである師匠よりもグラスを上にしたことです。水商売の暗黙の了解として、お客様と乾杯をするときはお客様よりもグラスを下に下げなければいけません。

師匠はそう言った接客の姿勢にとても厳しかったのです。ママさんは理由を聞くまで必死に師匠と話し込んでいました。地域では知らない人がいないほどの有名な師匠。この人に嫌われたらこの地域での商売は難しいという空気がありました。

人間力で売上を10倍にした師匠

師匠の前に経営してた人の時の売上は1日3万円程だったそうです。それを10倍にしたのは師匠の人間力だと思います。スナックに飲みに行くお金。出ていく金額を考えるととても真似をする気にはなりません。

飲食には立地条件が大きく左右するが、それを覆す人間も中にはいます。しかし、それは凡人にはかなりハードルが高いと私は思いました。

この出来事で私が学んだこと

それは、私には真似できないということです。なぁんだ、そんなこと学んだうちに入らないよってツッコミがありそうですが自分の中にある迷いを消すことが出来たんです。

ここまでしなくては不利な条件を覆すことは出来ないんだと知ることの意味は大きかったと思います。

このような豪傑の真似は出来ない。そう知ることで無謀な挑戦をしなくて済むんです。