ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

速い仕事と丁寧な仕事のどっちがいいか?は20年後を想像するかどうかで答えが変わる

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「将来のことを考えるとやめた方がいい」

若い時分は、自分の決めた人生の方向性について諸先輩方から多くの意見をもらえることがあります。

人生の先輩方は数多くの経験を積んできた中でアドバイスをしているわけで、そこには深い意味があることがあります。

その昔、「将来のことを考えるとやめた方がいい」と私は先輩に言われたことがあります。若い時には見えないもの。見ようとしてもほんの少ししか見えないものがあります。

つまり、その人生の方向性を選んだ場合の10年後、20年後の姿です。そんな人生経験に基づくアドバイスを先輩からいただいて、今でも感謝をしています。

その出来事とは・・・

手に職をつけて独立を夢見ていました。

何の取り柄もない私。しかし、いつかは独立をしてお金持ちになりたい。それなら腕一本でやっていける職人がいいんじゃないか?そう思い飛び込んだ防水職人の世界での話です。

20年以上前の関西は、関西国際空港京都駅ビルユニバーサルスタジオジャパンなど大型の工事現場が沢山ありました。

そこの職長(現場の職人をまとめるリーダー)に可愛がられた私はいろいろなタイプの凄腕の職人と仕事をさせてもらえる経験が出来ました。

普通のおじさんがカッコよく見える職人の世界

「この人は凄い」と言われる職人を何人も見てきました。町ですれ違ってもただの普通のおじさんだと思うのですが、実際に一緒に働いてみるとそのすごさに驚かされました。

「何でこんなに綺麗に仕上げることが出来るんだろう?」「なんでこんなに速いんだろう?」その卓越した技術を見ると、その普通のおじさんがとてもカッコよく見えたものです。

「この人は凄い」という評判の職人には大きく分けて3つのタイプがありました。

1)仕事が速い職人
2)仕事が綺麗な職人
3)人を使うのが上手い職人

その中で「速さはこの人は一番」と呼ばれているBさんと仲良くなることが出来ました。Bさんは一人親方で勝負好き。周りの職人に「よし勝負しよう」とどっちが速く作業できるか勝負をしていて、私の知る限り、誰にも負けていませんでした。

私も大きくハンデをもらい勝負しましたが、完敗でした。私はこのBさんを一番の目標にするようになりました。

なぜかと言うと、速く仕事を捌けば捌くほど独立した後は儲かるだろうと思ったからです。そして実際にBさんは大きく稼いでいました。

Bさんに連絡をとりたい

そんな目標だったBさんは、ある日から違うグループの会社のところに行ってしまいました。今の会社だと思うように仕事が回ってこなかったからと言っていました。とても寂しかったのですが仕方がないことと思いました。

しかし、その3年後、先輩職人から「Bさんに偶然会った」と聞きました。電話番号も教えあったそうです。私は嬉しくなり、先輩に「Bさんの電話番号を教えてほしい」とお願いしました。

先輩は「なんで?」と聞いてきました。「Bさんに弟子入りして僕もBさんみたいな人になりたいんです」と返すと「それじゃあ電話番号は教えられない」と言われました。

「どうしてですか?」と聞く私に先輩はこのように話してくれました。

「お前がBさんのようになりたいと思う気持ちは分かる。確かに、あの人は凄腕の職人だと思う。俺が出会った中で一番手の速い職人だと思う。しかしあと10年後20年後もあの人が一番速い職人でいてるとは俺は思わない」

「なぜなら、単純に速いだけの職人は後から後からいくらでも出てくるからだ。今、あの人のところにお前が行くとお前も手の速い男にはなれると思う。でもいざ、綺麗な仕事をしろと言われた時に出来ない男になると思う」

「Bさんは腕があるからいざ綺麗な仕事をしようと思っても出来る。しかし最初から今のBさんに教えてもらったやつは綺麗な仕事は出来ないと思う。そんなやつには簡単な仕事しか回ってこなくなるんだ」

「最初はそれでいいのかも知れないけれど、単純に速いだけの職人は他に沢山いてる。代わりはいくらでもいてるんだ。難しい仕事、ここ一番の綺麗さが求められる仕事を任される職人になった方がいいと思う。それが「この人でなければ」というレベルの職人なんだ」

速い仕事と丁寧な仕事どっちを選びますか?

Aさんの言葉を聞いてBさんへの弟子入りはあきらめました。年を重ねた年配の職人の中で、みんなから「この人は凄い」と呼ばれている人は、手が速いだけの職人ではなかったからです。熟練の腕が必要な難しいことが出来る職人だったからです。

速い仕事と丁寧な仕事。どっちがいいのか良く議論されることなのですが、その答えは今が良ければいいのか?それとも後のことも考えた方がいいのかによって大きく答えが変わるものだと感じました。