ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

残業禁止って言われても好きでやっているわけではない

労働基準法を守っていては経営が成り立たない

1日8時間を超えて働かせてはいけない(法32条2項)を守っている会社は少ないのが現状である。

価格競争が激しい業界で、競争を勝ち抜くにはどうしても少ない人員で業務をこなさなければならないという発想になる。

このように労働基準法を守りたくても守るのは難しいと感じている経営者は多いでしょう。

労働基準法を守らなければどうなる?

法律的に罰則が規定されている。例えば労働時間(32条)を守らなかった場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金とされている。

従業員による未払いサービス残業代の請求。過去にはお菓子で有名なフジッコが従業員約790人分の未払い30万時間分7億円の支払いを命じられている。

過重労働による過労死が起きると多額の賠償命令が下される。過去には店長の過労死問題で、ミスタードーナツフランチャイズ加盟店を経営する竹谷と社長らに4600万円の支払いが命じられたことがある。

それ以上に大きいのが世間の風当たり。大手飲食店がブラック企業と呼ばれるようになり、客足が遠のいたことは記憶に新しい。

このようにかつて、従業員に長時間労働をさせることで成長させていた会社は、それまでと同じ成長戦略を取りにくい世の中になり、多くの企業が労働時間を短縮させようとする動きになってきました。

しかし、新たな問題が起きています。私が勤める食品スーパーではこのようなことがありました。

お付き合い残業を強要する上司

まだ会社が過重労働を大きな問題としてとらえてなかった頃、会社全体に、サービス業なんだからまともな時間に帰れないのは当たり前という空気がありました。

当時の店長は、長時間労働を美徳と考え、その考えを部下である私たちに押し付け、早く帰りたいそぶりを少しでも見せると、「そんなに早く帰りたいんか?」と責める人でした。

しかし、店長の言うことが180度変わりました。

今まで、部下にまともな時間、定時で帰られることを極端に嫌がっていた店長の言うことが180度変わりました。

会社が従業員の過重労働を大きな問題としてとらえるようになったのです。それまでの、「そんなに早く帰りたいんか?」の言葉から・・・

「いつまで仕事をしているんだ?」
「時間内に終わらせて早く帰ってくれ」
「これからは残業禁止だから」
に変わりました。一見ありがたい言葉に聞こえますが、私の後輩君はこれに対して愚痴を言っていました。「どっちに転んでも痛いですよね」と。

残業禁止にどうして不満を持ったのか?

それはつまり、「労働時間を守れだと?寝言を言うな!」と言う気持ちからぐる愚痴でした。

レジに長蛇の列が出来、売り場がガタガタになり、手が回らない状態

山のような納品があり、捌いても捌いても、「いつになったら終わるのか」とため息をつく状態

クレーム・問い合わせなど、お客様への対応に振り回されて、やるべき仕事が手つかずになる毎日

そのため、「無理を言うな」と叫びたくなるのです。

「残業禁止」と言う言葉にもツッコミを入れてきました。

後輩君の話によると、そもそも禁止と言う言葉を言われる筋合いはないということです。禁止というのは好きでやっていること、もしくは勝手にやっていることに対して言う言葉だからです。

例えばギャンブル禁止。アルコール禁止。その人が好き勝手にやっていることに対して使う言葉です。

残業は好き好んでしているものではありません。仕方なくやらざる負えない状況だからやっていることです。

会社が禁止と言う言葉を使うということは、まるで私たちが勝手にやっていることのように捉えられているということです。

残業をする理由は大きく分けて3つあります。

仕事量が多い
従業員の段取りが悪い
従業員がだらだらと無駄に時間を過ごしている

禁止と言うのは「2番目と3番目の理由と思われているからじゃないか」と後悔君は言いました。

彼の愚痴を聞いて思いました。

「どっちに転んでも痛いですよね」の後輩君の言葉に、それもそうだなと思いました。彼と同じで私も、「無茶を言うな」と叫びたい気持ちになっていました。しかし私は

「こっちに転んでくれた方がまだ痛くないよ」と答えました。

なぜそのように言ったのか?それはやるべき仕事量が多いのに労働時間を守れと言うのは無茶な要求であるが、無茶を言われているのは会社も同じです。

ブラック企業に対する世間の風当たりが強くなり、労働環境の改善が必要になってきた会社。しかし、それまで社員が無理をすることで成長できていた部分が大きいのです。

自分たちが労働基準法を守っても、同業他社も同時に守らなければ価格競争に勝つことは困難になります。そうなると経営が圧迫される恐れがあります。

こんなに安さが求められる世の中で、どうやって利益を確保していくんでしょう?

今までは安さが求められる世の中で、さらなる無理を従業員が請け負うことで乗り切ってきた業界。こんな厳しい業界で無茶を言うなと会社も思っているでしょう。

一歩前進の評価

仕事量が減らされていない状態で「労働時間を守れ」は無茶だと言いたくなる気持ちが生まれます。

しかし、一歩前進の評価は与えたいと思います。なぜなら会社がそれだけ大きくなった証拠だからです。

会社が成長すれば社会的責任もそれだけ大きくなります。大きくなればなるほど、ブラックな体質は世間に大きくさらされる世の中になりました。

小さな会社では、まだまだブラックな体質が世にばれないことをいいことに従業員を泣かせることで成長を図ることが多いでしょう。実際に労働基準監督署が目をつけるのは

大きなところからでしょう。

まずは、無理でも一歩前進です。

同じ謝るにしても、「そんなに早く帰りたいんか?」に「すみません」よりも「いつまで仕事をしているんだ?」に「すみません」と謝る方がましです。

その方が、早く帰られる時は気兼ねなく帰れます。今まで早く帰ることに、どことなく申し訳ない気持ちがあったのがなくなります。

そういう意味では一歩前進。厳しい業界で無理は分かってはいるけど光は見えたということです。だから私は後輩君に「こっちに転んだ方が痛くないよ」と答えたのです。