遺産を持ち逃げされたけど証拠がない。「一生許さない」と言う気持ちがお互いの人生をめちゃくちゃにする
血を分けた兄弟で相続争いをする愚かさ
第三者の目から見て、首をかしげたくなる事件の一つが、親の遺産をめぐる兄弟の争いがもとで起きる事件です。そのようなニュースを見るたびに悲しくなります。
親が亡くなったことを悲しむ気持ちよりも、頭の中は金・金・金になっている姿におぞましいものを感じます。
そもそも自分が稼いだ金ではないのに、「俺の金」「俺の金」と、まるでミステリー小説や連続テレビドラマのようなドロドロの争いにもつれこむ。
それまで仲の良かった兄弟が、「一生許さない」「あいつの人生をめちゃくちゃにしてやる」と醜い争いをする。
そして、放火・殺人事件まで発展し世間を騒がせる。テレビのニュースキャスターもコメントで、「天国の父親も、この兄弟の争いを見てどう思うでしょうね?」としめくくります。
人の人生をめちゃくちゃにしたら必ず自分の人生もめちゃくちゃになる。因果応報の悲しい結末を迎えます。
相続争いで身内を殺害、それでも遺産は貰えるのか?
故意に他の相続人を殺害・または殺害をしようとしたために、刑に処せられた場合は相続欠陥事由になるので相続人からはずされます。
「もとは、もらえるお金に不満があったわけでしょ?」
「そんなことをしたら、1円の金も入らずに人生を棒にふるのに?」
「自分にとっていいことは何もないのに、なぜ分からない?」
親の遺産を巡る兄弟間の事件を見るたびに、お金の魔力の恐ろしさを感じさせられます。兄弟仲良く分け合うことがなぜ出来ないのでしょうか?
「一生許さない」「一生恨んでやる」「この恨むは絶対に晴らしてやる」兄弟間の確執が事件の引き金になります。
「元はと言えばお金に不満があった訳でしょ?そんなことをしたら1円も入ってこなくなるのに?」と多くの方が疑問に思います。
相続争いを避けた私
私は、子供時代に、ニューズでこのような遺産トラブルの兄弟間の事件を見て、「もしかして、この人たちってバカなの?」と思いました。
お金なんて、自分で稼いだらいいんじゃないの?遺産なんて、所詮は棚からぼた餅のようなもので、そんなに期待しなくてもいいんじゃないの?その方が男らしいのに?
そう思っていました。しかし、実際に私も、父親の財産を相続する時、兄を疑ったことがあります。ほんの少しですが、やはり、相続の場では人の感情は一筋縄ではいかないようです。
兄の弁護士に、遺産分割協議書を持ってきてもらったとき、私は兄を疑いました。
「兄は自分に都合のいいように遺産分割協議書を作成したのではないか?」と。
弁護士は、「どうします?異議申し立てをすることも出来ますよ」と言いました。意義申し立てをするということは兄と裁判で戦うことを意味します。
私は、「これでよしとします」と争いを避けました。
なぜ相続争いが起きるのか?
相続争いを避けた私ですが、心の中にはどろどろとした醜い感情が生まれていました。あれほど子供時代に「親が亡くなった時に大人は、金・金・金って醜いよな?」と思っていたのに自分の中にも、金・金・金の感情が生まれたのです。
そして、一つの疑問が解けました。どうして相続は争続と言う言葉で表現されるように、争いが深刻になるのだろう?その大きな原因の一つが、相手への疑いだと思いました。
相手が自分に都合のいいように遺産を相続しようとしている。絶対になにかを隠しているはずだ。疑いの気持ちが相手への怒りに発展します。
相続できる親の財産は、家・土地・預金と隠しようのない財産以外に、家に置いてある金目の物などは持ち逃げされる恐れがあります。
「もしかして持ち逃げしているのではないか?」と相手を疑う気持ちが生まれます。そして、この持ち逃げによる兄弟の争いは様々な相続問題の中でも、もっとも身近で耳にする話だと思います。
「兄に父の遺産を持ち逃げされた」
「姉に母の遺産を持ち逃げされた」
悔しい。でも証拠も何もない。許せない。そんな声をよく聞きます。しかし、その気持ちは生じて仕方がないものだと思います。人生はきれい事だけでは済まされません。
しかし、証拠も何もない過去の事情をいつまでも引きずるのは良くありません。どこかで気持ちを納得させることが必要でしょう。
兄の遺産分割協議書に疑いをもちつつ、私が争いをさけ、「これで良し」としたのにはある話が教訓として頭の中にあったからです。それは・・・
自分一人だけが幸せになろうとするとろくでもない人生になる
古来からそのようなことに気づかされるお話が無数に存在します。「自分だけが・・・」「自分だけでも・・・」と思う気持ち。この気持ちが人間の中にある以上この手の話はなくなることはないでしょう。
私は現在、食品スーパーに勤めています。先日、以前うちでパートをしていた方の家に遊びに行きました。そこで聞いた話に考えさせられました。
姉は父親のお金を全て持ち去りました。
今回の話をしてくれたパートさんは、若いころ旦那さんと別れ、女手一つで息子さんと娘さんを育ててきました。そんな彼女にはたった一人の姉妹である姉がいました。
姉は生涯独身で、とにかくお金に執着心のある方だったそうです。そんな姉妹は母親を早くから亡くし、父親だけに育てられてきました。父親は働き者でたくさんの貯金をしてたそうです。
姉妹が40代後半の頃、父親が病に倒れ、あとわずかの命と宣告されたころ、姉は父親の家から全てのお金を妹に何も言わずに持って帰ったそうです。
残された家は売却して姉妹で分けることになりました。
妹は大変腹が立ったそうです。裁判して姉と戦うことも考えたのですがそうすることはしませんでした。理由はその年、結婚する予定の娘さんがいて、姉にも娘の結婚式に気持ち良く出席してもらいたかったからです。
血のつながった姉妹は姉しかいない。裁判をおこしたら、たった一人の姉との仲は一生決裂する。そう思い我慢したそうです。そして父親の残した財産は古い家一軒だけになりました。
父親の家だけはお金と違って、姉が独り占めできません。売却して姉と分けることになりました。その手続きの時、姉は妹にこう言ったそうです。
「あんたさえいなければ」
この言葉を聞いて妹はとてもショックを感じたそうです。父親のお金を全てもって帰り、さらに家まで自分一人のものにしたい。その気持ちがとても悲しかったそうです。
遊んで暮らせるお金が手に入り10年後、姉は変わりました。
父親の残したお金はかなりの額だったそうです。姉は仕事を辞め、マンションを買い、毎日飲み歩く生活を始めたそうです。そんな生活が10年ほど続いたころから姉の状態は変わってきたそうです。
認知症の発症です。妹と会う約束をしても、約束を忘れ、電車でどこかに行くと、なかなか帰り方が分からない。
そんな状態になったそうです。さらに1日に何件も飲み屋をはしごをし、酔いつぶれて病院に搬送されることがたびたび出てきたそうです。
妹は姉に「お酒は控えた方がいい」と言うと「あんたにそんなことを言われる筋合いはない」と返されたそうです。
年を重ねても綺麗な姉は60代の男性と内縁関係になりました。
そんな姉は独身でしたが飲み屋で知り合った男性と一緒に住むようになったそうです。その男性と飲み歩いたり、旅行に行ったりするお金は全て姉が支払ったそうです。
男性は孫を連れて姉の所に遊びにくることもあり、毎回その孫たちにおこずかいを渡してたそうですが、ある日、姉にその孫たちの会話が聞こえてきたそうです。「まだかな?まだでないのかな?」
そして、おこずかいをあげたとたん「有難う」と言って帰るのです。姉は「しょせん他人の子供だから仕方ない」と妹に愚痴をこぼしたそうです。
姉が体を壊し入院中、姉がマンションのどこかに隠していたお金が欲しいのか、男性は姉のマンションをあちこち探し回る行動をしたそうです、しかし見つからずにあきらめて姿を消しました。
しかし、姉が退院し、まだお金を持っていることを知ると男性は姉のところに帰ってきたそうです。姉は自分のところに男が戻ってきたと喜んだそうです。
その頃になると姉の認知症はずいぶん進行していました。近所の人が亡くなったと聞かされた時にその家族に向かってニコニコと「じゃあまた遊びにおいでね」と、とんちんかんな事を言ったり、妹の名前がなかなか口から出てこなかったりしたそうです。
姉の姿が情けなくなりました。
妹は父親のお金をすべて持ち去った姉が許せませんでしたが、同時にそんな姉の姿が情けなくなり、どうしてもその男と別れさせたくなりました。そしてまだ父親の財産が残ってるうちに、姉が老後を安らかに暮らせる施設に入ってもらいたくなりました。
しかし、妹でも姉を無理やり施設に入れることはできません。姉の内縁の夫が「自分が面倒をみる」と言って聞かなかったそうです。そして、とうとうそのつけが姉にまわってきました。姉は病に倒れ病院で寝たきりの生活をするようになりました。
父親の家から持ち去ったお金は全てなくなっていました。
意識不明の重体で、救急車は男性が呼んだそうです。何日か昏睡状態で、妹も何日も病院にお見舞いに行き、話かけたけれど、目をつぶったままで何の反応もありませんでした。
それでも何日か通い話しかけてると、ある日いきなり姉は目をパッと開いてじろっと妹を見たそうです。この時は大変ビックリしたそうです。
その後、姉は食事を鼻からチューブでとるようになり、簡単な言葉を話すようになったそうですが、それ以上容体は良くなることなく息をひきとりました。
その後、姉の残した財産は妹が相続するのですが、あれほど多くあったであろう父親からのお金は全て無くなっていたそうです。それでもマンションが残っていたため、そのマンションを売ることは出来たそうです。
姉のお金は男性が持ち逃げしたのであろう。しかし、その男性は姉のすぐ後に病に倒れそのまま息を引き取ったそうです。
姉と妹の人生を分けたものとは?
「あんたさえいなければ」と言った姉に天罰が当たったんだと妹は話しました。
まとまったお金が手に入り、毎日飲み歩きお金も健康も失った姉と、親からの財産はほとんど受け取れず、女手一つで子供たちを育て、苦労に苦労を重ねた妹の話。
この話を聞いて、分かち合うべきであるお金を独り占めにして、自分だけが幸せになろうとする。なかなかそんなに上手くいくものじゃないとつくづく思いました。
持ち逃げした人が不幸になる確率は宝くじで大当たりした人が不幸になる確率と似たようなもの?
いかがでしたでしょうか?今回のお話は、持ち逃げされたお金をどうするか?と言ったお話ではありません。
持ち逃げしたことを相手に認めさせるのは大変難しいでしょう。裁判で争い、それまでの関係はドロドロとしたものに一変します。
確かに、自分がもらえるべきお金を持ち逃げされた時、なんとかして取り戻したいと思うのは普通だと思います。
しかし、子供のころに、そんな自分を想像できたでしょうか?兄弟を恨む自分を想像できたでしょうか?
世の中はきれいごとだけでは済まされない。大人になってから知る「人はお金がからむと人格が変わることがある」という残念な事実。
しかし、いつまでも引きずるのは問題です。どこかで納得しなければいけません。その納得に至る考えの一つとして今回のお話を紹介しました。
持ち逃げはされた方もした方も不孝だということです。両者ともにいいことはありません。持ち逃げに気付いた時の精神的なショックはされた人の方が大きいでしょう。
しかし、長い目で見ればどうでしょうか?お金は自分の才覚で稼ぐものです。
宝くじで1億円当たった人の多くが不幸になると言われるように、多額の遺産を持ち逃げした人も不幸になるのではないでしょうか?
一生許さない?心配しなくても大丈夫でしょう。親からいただいたものは金ではなく、人生を前向きに生きる力です。