ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

催眠商法1年目の4話目(最終回)

催眠商法1年目の4話目(最終回)

 

会場にお年寄りを集めて高額な健康食品を売る催眠商法

 

2か月ごとに各地を転々とする。

 

その会社に入社して4場所目のことだ。

 

私は追い詰められていた。

 

3場所目まで自力で注文を取れていない。

 

私の実績は先輩が譲ってくれた注文と向こうから勝手に「欲しい」と言ってきたお客さんだけだ。

 

対して先輩方はみんな説得してバンバン注文を取ってきていた。

 

新人は最初の1場所目は注文が取れなくて当たり前と言われていたが3場所連続で自力で取れなかった奴は前代未聞だ。

 

もう私の居場所はない。

 

かといって、逃げたとしても、私みたいな何の取柄もない人間はどこに行けばいいんだろう?

 

追い詰められた。

 

しかし、追い詰められてやっと自分が持っている気迫が生まれる。

 

4場所目の最初の高額商品の宣伝の最終日。

 

店長が「あと残り5セットです」と数のあおりをしてくれた。

 

この条件で申し込めるのは今日までです。

 

その日の講演が終わり、お客さんはぞろぞろと逃げるように帰っていく。

 

それでも社員は最後まであきらめずに、「今日までですよ」と帰るお客さんに声をかけている。

 

最後の悪あがきだ。

 

こんな時、お客さんはとても、そそくさと帰ってしまう。

私たちと目も合わさない。

目が合ったら勧められるからだ。

 

そんな中で、自転車で帰ろうとしていた男性のお客様が目に付いた。

 

逃げる客を追いかける。

 

「たたたたた・・・大変ですよ、おとうさ~~ん」

「はぁはぁはぁはぁ」息を切らしながら男性客を足止めした。

 

「大変なことに、もう残り1セットなんですよ~」

「いや~~本当にこれで最後の1セット」

 

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おじさんは「・・・・・・・」無視。

 

それでも私は食らいついた。

 

「もうこのチャンスを逃したらこの条件では買えないんですよ」

「それが残り1セット~~」

「これが最後なんですよ~」

 

絞り出すような声で訴えた。

 

おじさんはぽつりとこう言った。

 

「支払いはすぐには出来ないよ」

 

すかさず私は、「大丈夫です。まずはこのチャンスをつかんでほしいんです。支払いは後から一緒に考えましょう」

 

おじさんはしばらく考えて、「じゃあ、支払いは明後日でもいいかな?」

 

※お客さんは買うまでは「すぐに払えない」というが買うと決まればすぐに支払う人が多かった。

 

「も・・・もちろんです」

 

この間にローンを書いているお客さん以外は全員帰っていた。

 

「ありがとうございます。ご予約で~~す」

 

私は叫んだ。

 

店長と手の空いている社員がみんな飛んできた。

 

「ばんざ~~い」と一緒に喜んでくれた。

 

みんなで、「良かったですね。お父さん最後に間に合いましたね~」

 

パチパチパチとみんなで大拍手。

 

これが私がこの仕事で初めて説得して注文を取った出来事だ。

 

店長から、「まずは大きな第一歩だな」と言われた。

 

この一歩を踏み出すまで、8か月ほどかかった。

こんなに時間がかかった新人はいなかったと思う。

何かをつかみかけた。

 

4場所目の2つ目の商品の販売。

 

商品をお渡しする日。

 

かたくなに「欲しいけど買えない」と最後まで粘るお客さんがいた。

 

その人を、わざと私は残した。

 

「実はいい話があるの・・・」

「もう、何よ~これ以上いい話があるわけないでしょ」

苛立つお母さんに・・・

 

他のお客さんがぞろぞろ帰る中、紙とボールペンを出す。

 

紙に書いていい話を説明するのだ。

 

「いまから言うことは絶対内緒だよ。

 

僕とお母さんで組んで買ってほしいの。

 

僕とお母さんで分けるの僕が半分の15万円を買って

 

お母さんは半分の15万円を買うってこと」

 

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「も~~う、熊ちゃん、支払いは来月でもいいの?」

 

「うんうん、それは大丈夫。このことは内緒だからね。ありがとうね」

 

そして商品の入った紙袋をお渡しする。

 

半分買うというものはセールストークだ。

 

最後の最後まで

 

血の一滴まで、1箱でも多くと粘り続ける。

 

これを私たちは善意の嘘と呼んでいた。

 

善意と言うのは素晴らしい健康食品を続けて飲んでもらって体質改善をしてもらうという善意の気持ちで嘘をつくということだ。

 

嘘も方便。人様を正しい道に導くために多少の嘘は仏教でも認めているという理屈をあの会社は持っていた。

 

私が入社して1年間まともに注文が取れなかったのはこれが理解出来なかったからだ。まともな神経の持ち主には注文が取れない。

 

心からこれは正しいことをしていると自分で自分に催眠をかけ、悪に染まっていかねば、ふざけた値段の商品を販売することは出来ない。

 

その後、私はどんどん催眠商法の営業にそまっていき、6年間勤めた。

 

そこで学んだこと。知ったこと。

 

それを全て世の中にさらけ出すことを決意した。

 

このような商法は世の中にあってはいけない。

 

騙される人が一人でも減るようにと願いを込めて。

 

www-jiyu-co-jp.amebaownd.com

 

11月2日発売予定です。全国の書店様にてご予約ご購入ができます。
身近な人を守るために知っておきたい!催眠商法の現場を元社員が詳細に明かします!
原稿の一部を掲載しますので是非ご覧ください(=^・^=)