ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

何事も穏便に済ませようとするのは他の人を大事にしていない証拠

勤め先の食品スーパーで、「これ返品したいんだけど」とお客様が牛乳を持ってこられた。
レシートを確認すると、30分前に購入されたものだった。返品の理由は「やっぱりいらなくなったから」だった。なので「申し訳ございませんけれど冷蔵商品は店の外に出られているので、返品には応じられません」と答えた。
 すると、「なんで?普通どこでも当日だったら返品してくれるわよ」
「うちも常温で保存できるものでしたらレシートを確認して、当日に限りさせてもらっていますが、冷蔵、冷凍、パンなどは傷むのが早い商品でして、店の外に出られた時点で、私達が、その商品がどのような保存状況に置かれているかを確認することができませんので、申し訳ないのですがお断りさせて頂いています」
「そんな訳ないでしょ?さっき買ったばかりなのにそんなにすぐに牛乳が腐ると思ってるの?」
「申し訳ございませんが、食の安全を守る立場として出来ないのです」
「もうあなたうるさいわね。ちょっと待ってなさい」
少しの時間で、お客様は私のところに戻ってきた。その手にはオレンジジュースがあった。そして「これと交換するからいいでしょ?別のものとの交換ならいいでしょ?」
「申し訳ございませんが交換であっても牛乳をこちらが受け取ることになりますので、対応出来ないんです」
「あなた、良く考えなさいよ。交換なんだから、あなたは何も損をしていないでしょ?」「申し訳ございませんが、損か得かでの対応は出来ないんです」
「あなたしつこいわね。何度同じ事言ったら分かるの?私は返品するって言ってないでしょ?交換なのよ。それを駄目だなんて、あなた良くそれで商売が出来てるね。もっと頭を柔らかくして考えなさいよ。これを戻してこれを買う。それで済むじゃないの?それをあーだこーだと無駄な時間を使うことないでしょ?」
「お時間を頂いて申し訳ございませんが、会社のルールとして受け付けられないんです」「何をそんな小難しいことを言ってるの?もっと簡単に考えたら済むんじゃないの?あなた達だって暇じゃないんでしょ?」
「簡単に交換で済むのなら話は早いのですが、ルールがあるので申し訳ないのですが勝手な真似が出来ないんです」
「あーもう、頭にきた。私はお金が欲しくて言ってるんじゃないのよ」
「本当に申し訳ないのですが・・・」
「もういい帰る。もっとお客さんを大事にしなさいよ」
お客様が帰られる際、私はただ「申し訳ございません」と謝るだけが精一杯だった。 
すぐに店長に報告した。頭の中はモヤモヤとした気持ちで一杯になった。「もっとお客さんを大事にしなさいよ」その言葉が深く心に突き刺さった。正直な気持ちは返品してあげたかった。購入してから30分しか経っていない牛乳は、肌寒い時期であるから大丈夫だろう。返品してあげたらわずかな時間で済んだことだった。しかし、上司から「お客様都合の返品は絶対に受け入れないでくれ」と言われていた。                   
一人を許すと違う人も許さなければいけなくなるからだ。            「以前にやってくれたじゃないの?」と再び同じことをされることがあるからだ。
正直言ってこの手のやり取りはとても骨が折れる。何事も穏便に済ませたいと言う気持ちが湧きおこる。お客様あっての商売であるからお客様の気持ちを考えないといけない。だから「もっとお客さんを大事にしなさいよ」と言う言葉が心に突き刺さる。
その突き刺さった言葉を心から抜こうと苦しむ中で見えてきたものがあった。それはあの時返品をしなくてよかったと言うことだった。
何事も穏便に済ませたいと言う気持ちで安易に返品をしていたらどうなるのか?そのお客様を大事にすることにはつながるだろう。しかし全てのお客様を大事にすることにはつながらないだろう。なぜなら食の安全を守るというルールを無視するからだ。一人を大事にすることは全員を大事にすることにはつながらないからだ。

 

 

あやしい催眠商法 だましの全手口  身近な人を守るために知っておくべきこと

あやしい催眠商法 だましの全手口 身近な人を守るために知っておくべきこと

 

 

 

「あやしい催眠商法だましの全手口身近な人を守るために知っておくべきこと」
単行本: 230ページ
出版社: 自由国民社 (2018/11/2) 
筆者 ロバート・熊
イラストレーター にゃんとまた旅/ねこまき
身近な人を守るために知っておきたい催眠商法の現場を元社員が詳細に明かした本です。
★本書の特徴
1.いかにしてお年寄りのこころを奪うか、元社員が明かします。   
2.ネット上にある催眠商法の説明はごく簡素なものですが、事実はかなり込み入った内容です。本書では複雑で巧妙な手口をあますことなく紹介いたします。
3.まず近づかないことが一番ですが、もし被害にあってしまった場合の有効な対策も分かります。

大型書店の法律書の棚に並べられていることが多いです。
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