こうして僕は居酒屋の経営に失敗した
脱サラを夢見て
もうサラリーマンは嫌だ。上司からプレッシャーを与えられる。今日は楽をしたいと思ってもやるべき仕事が山のようにあり、楽ができない。自分の好きなように動けない。それに比べて自営業は自分で何もかも決めることが出来る。
自分が社長なら、職場の人間関係に悩まされずに済む。そう思い居酒屋の店長に弟子入りをして、師匠と呼ぶことになった。
想像以上に過酷な修行
師匠の店はとても繁盛していて目が回るような忙しさだった。朝から夜遅くまでの想像以上に大変な修業と師匠からの毎日の説教に心が折れそうになった。
それでも、先に独立した先輩の「修業が厳しければ厳しいほど、独立した後は楽に感じると思う」と言う言葉を信じて乗り切った。そして、厳しい修業が終わりいよいよ独立となった。
先輩の言葉通り、独立した後は気持ちも体も楽になった。厳しい修業から解放された気持ちはまるで背中に羽が生えたような気分だった。
なぜお客さんが来ない?
よし、俺はやってやる。師匠の店よりも繁盛させて、成功者になって見せる。そう意気込んでみたもののお客さんはほとんど来なかった。
こんなはずではなかった。そう思い近隣の住宅にドリンク1杯目無料のチラシを配りに行った。駅にも配りに行った。しかし効果はほとんどなかった。暇で、お客さんの来ない時間は店のテレビを見て過ごした。
そんなある日、一人の男が来店してきた。以前にこの店を経営していたという男だった。
前に入っていた経営者の話
彼は2年ほど、この店を経営し、お金を貯めた後、訳あってアメリカに自分の夢を追いかけに行ったそうだ。そして1年ぶりに日本に帰ってきて、かつて経営していた店を懐かしく思い見に来てくれたのだった。
その彼が教えてくれた。「俺も最初この店を始めた時は半年間本当に暇だった。しかし半年間どんなに暇でもコツコツとお客さんを増やして来たらなんとか食べていけるようになり、そのうち繁盛するようになった。
近隣の店が閉店時間を迎えても遅い時間まで店を開けとくことによって、あそこの店はいつも遅い時間まで開いてると評判になってお客さんが増えた」
彼の話を聞いて、「よし俺も頑張ろう」という気持ちになった。今は暇な店でも努力次第で何とかなるかもしれないと希望が見えた。しかし地道にコツコツと常連のお客さんを増やすのは思ったよりも大変だった。
自分にムチを打てない
小さな居酒屋はお客さんとのコミュニケーションが大事なのは分かる。しかし楽な方を選ぶ性格の私は積極的にお客さんにアプローチしなかった。
そのうち、閉店時間も長く開けとくのが面倒になり、チラシも配らなくなった。当然売上は上がらない。自分に鞭を打てない私は楽ばかりを考え体重が十キロ増えた。
その時にサラリーマン時代を思い出した。あの頃は自分の好きなように動けなかった。
仕事に追われ、時間に追われる毎日に嫌気がさしていた。
今は独立して上司に気をつかわなくていい。自由に動ける。楽な方を選ぶことが出来る状態だ。上司に怒られることもプレッシャーを与えられることもない。
だから私は甘えてしまう。自分に鞭を打てない私は誰かに鞭を打ってもらった方が頑張れる。居酒屋を辞めると決心した時そう思った。
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筆者 ロバート・熊
イラストレーター にゃんとまた旅/ねこまき
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