ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

予定が狂った時に一緒に段取りを進めている人に相談しなければ自分勝手な人と思われる

同僚の彼と一緒に、時間のかかる作業を前もって日を決めてしようと言うことになった。私と彼とアルバイトの3人でしようと決めていた。しかし当日、アルバイトは体調を崩し仕事を休むことになった。
3人でする予定を2人でするのは大変だ。しかし、前から予定していたことだ。やると決めた以上はやろうと思い、準備に取り掛かった。そんな私に彼が近づいてきて怒った。
「3人でするところを2人で出来ると思ってるの?」
「もっと状況を考えて行動をしてくれる?」
そう言い、私から離れた。彼の言葉に腹が立った。前からやると決めていたことなのだ。予定通りに進めようとしているのに何を怒っているのだと思ったのだ。
しかし、彼の言うことも理解できた。2人でするのは確かに難しい。それならば、今日はやめとこう。違う日にしようと言う気持ちになった。
なので、彼に近づき「言われた通り状況を考えたら無理ですね。だから、予定を変更して作業を中止しますね」と言った。
これに、彼はまた怒った。「なんで勝手に決めるの?私はやる気でいたのに、急にやめると言われたら気分が悪いよ」この言葉に私も腹が立ち言い返した。「『状況を考えて行動してくれる?』と言ったよね?それは今日はやめといた方がいいってことだよね?」私の反論に彼は「やめようとは一言もいってない」と返してきた。
これ以上口論しても仕方がないと思い、結局は「予定通りに行おう」ということになった。そして時間はかかったものの無事に作業が終わった。
後で別の同僚に、「彼は、予定通りにしようとしていた私に怒ってきたから、じゃあやめておこうということにしたのに、それに対しても怒ってくるなんて、なんという身勝手な人なんでしょうね?」と愚痴をこぼした。
これを聞いた同僚は、「あなたは状況を良く考えて行動をしたと思うよ。でも、あなただけじゃなく、あの人も状況を良く考えていたと思うよ。しかし、二人で一緒に考えなかったことが衝突につながったんだと思うよ。あの人は、『どうして相談してくれないの?私だって段取りを考えているのに』と思ったんじゃないかな?」と言った。
後で、冷静になって考えると自分が身勝手なんだと気付いた。状況を考えて行動しているのは自分だけではなかったのだ。時間がかかるものほど、大変なものほど、重要なものほど一緒に行う仲間との相談が必要なのだ。
 そしてこの件で一番の問題はアルバイトが急に休むことになった時に何の相談もしなかったことだ。
 やると決めたことをやるにしても、一言あった方が良かったのだ。「アルバイトが急に休みになって二人でやることになるけれど頑張りましょうね?」「二人ですることになるけれど、どのように段取りをしましょうか?」それらの問いかけが必要だったのだ。

向上心を持つことは大切だがそれが毒にならないように気を付けることはもっと大切だ

大手のスーパーで店長を経験したことのある男が、そのノウハウを引っさげて入社してきた。とても仕事に対してガツガツしていると評判の、はりきり君だ。
そのはりきり君は入社してわずか1年ほどで店長を任され、しかも店の売上の前年比を大幅にUPさせ、上司から期待された。その中でも特に期待されたのは、彼の売り場作りのノウハウだ。
センスももちろんのこと、きちんと数字を分析して、他のスーパーの売り場も参考にしながら彼が作った売り場は、まさに売れる売り場だった。
そんなはりきり君は一つの店の店長であるにも関わらず、本部の上司から他の店にも「あなたのノウハウを教えてあげなさい」と言われ、売上が低迷している店を中心に他店を回ることになったのだ。
うちの店にもはりきり君は来て、売り場の改善を一緒にしてくれた。はりきり君は私に「熊さんはこの仕事好きですか?」と聞いてきた。私は社交辞令で「好きですよ」と答えた。すると彼は「あー良かった。実は、僕はこの仕事が大好きなんですよ。やっぱり仕事というものは好きと言う気持ちから始めるのが一番だと僕は思うんですよね。だから熊さんがこの仕事を好きと言ったその気持ちは忘れないで下さいね」と言った。
忙しさにうんざりしている社員がほとんどの中で彼のはりきった言葉はとても新鮮に耳に入ってきた。
ところが、しばらくすると、上司からはりきり君が会社を辞めたことを聞かされた。原因は欝病だ。ビックリした。あれほどやる気に満ち溢れていた彼がどうしてかと思った。
上司の話によると「あいつは可哀想な奴だ」ということだった。どういうことかというと、自分の店の数字も維持しながら、本部から他店の改善も求められて、それでもガツガツした姿勢を崩さなかったはりきり君はついに、自分の器以上の仕事を抱え込みすぎて気がおかしくなったようだ。
そんなはりきり君に。町で偶然に会った。久しぶりの再会に嬉しくなった私は、彼に今は何をしているのか聞くと、派遣の仕事をしていると答えてくれた。「えっまじか?もったいないだろ」と思った。
売り場作りの能力が高いのだから、正規雇用でどこかの小売業の会社に行ったらいいのにと思ったが、そこは突っ込まないでおいた。
そんな彼との再会を思い出し今思うことは、人は忙しすぎても暇すぎても向上心を維持するのが難しくなることだ。
世の中には努力よりもセンスを重要視し、そう簡単には重要な仕事のチャンスが貰えない職場もある。そんな職場ではチャンスを貰えないことに対してストレスを感じてしまうのだ。そのストレスは向上心が強ければ強いほど比例して大きくなるものだ。
逆に仕事量の多さにうんざりしている人が多い職場では、向上心を見せれば見せるほど多くの仕事が与えられ、向上心を維持出来ないレベルになることもある。
働く上で向上心を持つのは素晴らしい事だが、職場の状況と自分の器を考えた上で、どの程度の向上心を持つかどうかを考えないと、その向上心は薬になるどころか毒にもなるということだ。

「規則だから出来ません」では納得されないことも想定しないと大きな時間をとられる

お客様は購入した一升瓶のお酒を買ってから、袋詰めをする台に置いたまま、その場を離れ、買い忘れていた物を買っていたそうだ。するとその間に置いていたはずのお酒が消えていたそうだ。そして従業員が疑われた。
「従業員が盗ったんじゃないの?」
「いえ、そういうことはしません。万が一ここに置いてある商品を持って行く時は忘れものとして必ずお預かりしますから」
「じゃあ、どうしてなくなるの?」
「もしかしたら別のお客様が持って行ったかもしれないですね」
「まぁ、とにかく私が買ったのは間違いないよ。レシートもちゃんとあるからね。だから早く持ってきてくれる?売り場にまだいっぱい並んでいたでしょ?」
「申し訳ございませんが、そのようなことをすると、お客様が購入された商品以外にお渡しする事になるので、出来ないんです」
「それじゃ、金だけ払って手ぶらで帰れと言うこと?私は買ってない商品を渡せと言っている訳と違うのよ?ちゃんとレシートがあるのよ」
「購入されたことは分かるのですが、その商品はここからなくなったわけですよね。そうするとそれ以外にもう1本お渡しするということは出来ないんです」
「私はどう納得したらいいの?」となかなか納得されないお客様。そういうことならと私が防犯カメラの映像をチェックするということになった。すると、お客様がお酒を置いた瞬間もちゃんと映っていて、さらにその後、お客様がその場を離れた後に別の女性のお客様がそのお酒を袋に入れて持ち去るところもばっちり映っていた。そのことをお客様に伝えた。
 すると、「その映像を見せてくれ」と言われた。しかし、会社の決まりで防犯カメラの映像をお見せする事は出来ないと伝えると・・・
「何言ってるの?それぐらいどこでも見せてくれるよ」
「申し訳ないのですが、規則なんで・・・」
「そんなことで納得出来ると思うの?」
「申し訳ないのですが規則である以上は勝手な真似が出来ないんで・・・」
「それだったら、子供が変質者に襲われた時でもあなたは、そんな言い訳するの?」
「いや・・・それは・・・」
「私は別に無茶な要求をしてないよ。ただ納得したいから言ってるだけなの。。あなたは店長さんか?」
「いえ、店長は本日公休になってまして・・・」
「それなら、上の人に相談してからものを言いなさいよ」と言うことで店長に電話をした。すると、本来は防犯カメラの映像はお客様に見せてはいけないのだが、店長が出した答えは「ややこしいお客様だから見せてあげて納得させてあげよう」ということだった。
そういうことで、お客様に事務所まで来てもらい一緒に映像を見てもらった。別のお客様に盗られた瞬間がばっちり映っているので、店の従業員が盗ったわけではないことが分かってもらえた。
後は警察に被害届を出すかどうかはお客様の判断になる。しかし、お客様から、「じゃあ、今から一緒に警察に来てくれるよね?」と言われ、「え?」と驚いた。
そんなに暇じゃないのだ。忙しいのだ。だから、「申し訳ないのですが、私たちにも店での業務があるので、ここまでの事しか出来ないんです」と言った。すると・・・
「それぐらい、どこでもやってくれるよ。それにここの店の中で起きた犯罪でしょ?店の外で起きた犯罪ならともかく店の中でのことでしょ?」
「お気持ちは分かるのですが、お会計が終わった後の商品の管理については責任を負うことが出来ないんです」
「そんなことはないでしょ?」
私はしばらく、やんわりと断り続けた。そしてお客様は、警察への被害届は自分でされることに納得されて帰った。久しぶりに難しさを感じる対応だった。
防犯カメラの映像をお客様に見せてはいけないのは会社の規則だ。警察や、裁判所の公的機関からの要請があった場合だけ、見せることが出来るのだ。
 個人情報の保護の観点から見せられないという理由は後から知った。あの時知っていたら、もっとスムーズに納得に至ったかもしれない。
 お客様の中には「規則だから出来ません」では納得されない人もいる。なぜ、その規則があるのか?そこまでをきちんと説明出来ないと納得されないのだ。