ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

人がうらやむ会社に入れなかった私たちだけど、せめて今勤めている会社を人がうらやむ会社にしたい

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長時間労働させられています」と労働基準監督署に訴えられたのかもしれません。

食品スーパーのおやじです。今年の会社の大きな目標の一つが労働環境改善です。会社の規模が大きくなり、社員の数が増えるにつれて、一部の店舗で社員の長時間労働が問題になりました。

どうして会社がこの問題を大きくとりあげたのか?考えられること。それは、閉店時間後にやるべき仕事量が多いために長時間残業している社員が労働基準監督署訴えたのかもしれません。

どうすれば過重労働をなくせられるのか?

仕事を早く切り上げて帰られるかどうかは、個人の能力の差もあるでしょう。真面目にきっちりしようと時間をかける社員もいれば、そこそこで切り上げて明日に回すという社員との差もあると思います。

しかし、会社としては長時間労働を大きな問題として捉えてます。じゃあどうすればいいのか?今年に入って社員が集まって会議が行われました。

この会議は会社役員のAさんが中心に行っていました。

毎日の日報をもっと簡単なものにすれば?金庫とかの計算も次の日にすれば?社員からいろいろな意見がでてきました。

実際にその後、いろいろな意見が採用されて、閉店後の仕事の量が少なくなりました。さらに人件費も若干、見直され、久々に実りのある会議だったと感じました。

安売り合戦の今の現状では人件費を増やすのはハードルが高い。

しかし、会議の後、仲の良い社員が私に言いました。「Aさんの言ってる事は分かるけど現実的な問題があるよな?」と。

どういうことかというと、人件費は見直され、今までよりも人を使うことが出来るのはありがたい事だと思います。

しかし、経営を圧迫するほどの人件費を使ってはいけません。当たり前のことですが、会社がつぶれたら、どうしようもないからです。

私達のすんでいる地域は食品スーパーの激戦区です。他店よりも1円でも安くと、しのぎを削っています。安さこそが絶対の正義のような空気があります。

安さを提供しつつ、利益を生み出さなければいけません。そのため、無駄な人件費を削減しろと現場では叫ばれていました。

薄利多売の業界でどうやって人件費を増やすのか?

今までは、低価格を打ち出すことで他店との競争を勝ち抜いてきました。しかし、これからは安さだけでは生き残れません。食品スーパーの安売り合戦は限界に近づいているからです。じゃあどうすればいいのか?Aさんは言いました。

「利益の大きいものを売りましょう」と。多少、値段が高くても価値のあるものをお客様に提供して満足していただくと言うことです。

要するに自社ブランド商品です。自社で開発した商品なので利益が大きいのです。これの売上を伸ばせられれば、今までよりも人件費がかけられます。そのためには工夫して売って下さいと言うことです。

しかし、安さで集客している店の現実的な問題が生まれます。

私たちの店は「ここは安い」とお客様にイメージされています。たとえ物が良くても値段が高いものを置いてもなかなか売れません。安さで集客しています。

高いと思われると客足が遠のくと考えられるのです。だから、利益幅を大きくして人件費に還元して、労働環境を改善するというのはハードルは高いのです。

しかし、最初から、高いものは売れない。利益幅を大きくするのは無理だと決め付けてしまったら、いつまでたっても使える人件費は増えません。

会社の経営陣は現場の労働環境を良くしようと考えてくれてます。現実的なハードルは高くても現場で改善出来る事は積極的に改善していこうと思いました。

Aさんの会社に対する夢

労働環境改善に取り組んでいるAさんは、社員にとても人気があります。情があるからです。社員を気遣う気持ちがとても感じられるのです。夏場に来られた時は「ちゃんと水分補給しているか?いっぱいお茶飲んでくれよ」と私達を気遣う言葉をかけてくれました。

そんなAさんが、この前、店を見に来てくれました。実はAさんは私よりも少しだけ年上で、経営陣の中では、まだ若いです。社長の身内です。会社を愛しているという気持ちがとても感じられる人です。Aさんは言いました

「私には夢があるんです。この夢が実現するのは何年かかるか、何十年かかるか分からない。でも将来、うちの従業員が誰かに、どこで働いてるの?と聞かれた時、うちの会社の名前をだしたら、へぇー、いいところに働いてるんだな羨ましいと言ってもらえる会社にしたいと思っているんです」

今更、大きな会社には就職できない

さらにAさんは言いました。「こんなこと言ったら何だけど、私達みんな、たいした学歴なんてないし、私も学生時代、勉強してこなかったから、今さらソニーとかシャープとかの大きな会社になんか就職できないもんな」

私  「たしかに、よっぽどのコネがないと無理ですね」

Aさん 「人がうらやむ会社には、入れなかった私たちだけど、せめて、今勤めてる会社を人がうらやむ会社にしたいと思ってるんですよ」

「しかし、薄利多売の会社で労働環境改善なんてやるだけ無駄と思っている人が多すぎると思うんです。私はここを覆さないといい会社にはなれないと思うんです」

Aさんの言葉に痺れました。

「学生時代勉強してこなかったから、いい会社に入れなかった」。人によっては馬鹿にしているのかと思うような言葉だと思います。しかし、私はこの言葉をすんなり受け入れることが出来るのです。

私自身がもっと学生時代、勉強しとけばよかった。そうしたら、もっと、もっと環境のいい会社に行くことができたんじゃないか?心の中で思い続けているから、Aさんの言葉がすーーと入ってくるのです。

しかもAさんも学生時代、あまり勉強をしてこなくて学歴コンプレックスがあるようで、共感出来る部分があるのです。

小売業の会社に勤めて、つくづく思うのは他社よりも10円でも1円でも安くと、しのぎを削る業界で生き残るため、どうしても経費削減、人件費削減で、少ない人員でやらざる追えない現状があるということ。それに目が回りそうになります。

薄利多売の会社で、一人一人の仕事量を増やし、そして長時間労働をすることが美徳のような空気が生まれていた時もあります。しかし、その空気が広がれば広がるほど会社はブラック化していきます。

そうなれば社員も会社に誇りをもてなくなります。今さら学生時代に戻って勉強と就職活動をやり直すわけにはいきません。

ならば今、自分が勤める会社を誇りのもてる会社にしたい。「この会社に入ってよかった」そう胸を張って言えるような会社にしたい。上司の言葉がとても心に響きました。

厳しい競争を勝ち抜くため、労働環境改善なんてやるだけ無駄と思いがちである

世の中は不景気だ。ライバルの会社に勝ち抜いていかなければ生き残れない。会社勤めをする多くの人が危機感を募らせて頑張っている昨今の現状があります。

そんな中では、まっさきに思いつくことが少ない人員での営業です。労働改善なんてやっていて、会社がつぶれてしまったら元もこうもない。そんな考えが蔓延しがちです。

しかし、難しい問題に目を背けるとどうなるのか?

会社がつぶれてしまったら元もこうもない。しかし、人件費を減らす行為は最初のうちは従業員の気持ちを追い込み生産性が上がるのですが、それがエスカレートすると、今度は不満の爆発というよからぬ結果をもたらすことがあります。

「労働環境改善なんてやるだけ無駄」と言う上司ばかりの組織と、そういった周囲の意見を覆す上司がいる組織。どちらが従業員の会社愛を引き出せられるか?答えは明確でしょう。