ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

「ごめんなさい」なんていらない。辞める時は無理してあいさつ回りはしなくていい。

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9回の転職で、退職時の挨拶回りには職場によって様々な慣例があることを知りました。

最も印象に残っている慣例

営業の会社でワンフロア120人ほどで、様々な部署があり、その全てに挨拶が求められました。

部署ごとの挨拶なので120人全員と言うわけではないものの、普段ほとんど話したことのない人にまで挨拶をするのに大きな違和感を感じました。

その逆に黙って消える人の多い職場

今、私が勤めている食品スーパーがそうなんです。社員の出入りの激しい職場で、辞める時は消えるように辞める人が多いです。

もちろん、自店の従業員には挨拶はするものの他店に挨拶をする人はほとんどおりません。ネガティブ退社は黙って消えろという空気があります。

そんな空気がある、うちの会社での出来事です。

後輩社員が1年ぶりに会いに来た理由

先日、3年前に当店で研修をして、他店へ移動になった後輩社員が、1年ぶりぐらいに姿を見せました。あたりをキョロキョロと誰かを探しているように見えました。

私と目が合ったので・・・

「あれ?どうしたの?」

「いや・・・その・・・実は今月いっぱいで辞めることになりまして・・・」

「聞いてるよ」

実は彼が今月いっぱいで辞めると言うことは、他の社員から聞いていました。そこそこ勤務年数のある社員が辞める時は、普段会わないような本部の上司が説得にきます。彼も説得されたのですが、決心は変わらなかったようです。

せっかくなので、店の外で少しだけ話をしました。

彼との会話です。

「熊さん、すみませんでした」
「えっ!別に謝る必要はないと思うけど」
「せっかく昔、一緒になって色々教えてもらったのに・・・」
「そんなん、気にしたらあかんやろ」
「ところでパートの〇〇さんと〇〇さんはいますか?」
「いや、今日休みやけど」
「じゃあ、また挨拶にきます」
「別に無理してこなくていいと思うよ。結構みんな辞める時は知らず知らずにやめてるし」
「そ・・・そうですか」

彼が辞める理由は、「自分の能力不足」だそうです。

次の就職先は決まってないそうです。うちの会社では良くあることなので、仕方がないことだと思いました。しかし、普段一緒に仕事をしていないにも関わらず私にあいさつしに来たことが気になりました。その行動に若干の違和感を感じたからです。

なぜ違和感を感じたのか?

それは、昔の私の行動と重なって見えたからです。もう10年以上前のこと。私は小さな居酒屋のフランチャイズの店長をしていました。そこでの出来事です。

厳しい師匠からの研修が終わり、店を持たせてもらえましたが、わずか半年で辞めることにしました。理由はお客さんがほとんど来なかったからです。そして辞めた後に師匠と話をしました。師匠には私のほかに4人の弟子(私から見たら先輩)がいました。

私は、先輩の店に「辞めます」という挨拶をしにいきました。※辞めるということを師匠に伝えた後での行動です。そのことを話すると師匠がカッと目を見開き「お前、あいつの所に行って何を求めてるんや?」と聞いてきました。

予想外の言葉に驚きました。

思いもしなかった質問に私は・・・

「お世話になった兄弟子にあいさつをしなかったら失礼になりますし・・・」すると師匠は「お前のその行動は何かを求めてるように思われるんや」黙り込む私に「まあ・・いいわ」とその話は終わりました。

私は何も求めていないつもりです。ただ何も言わずに消えるのは失礼だと思っただけで、どうして、そのようなことを言われなければいけないのかと憤りを感じました。この昔の出来事が今回の辞めていく社員の行動と重なって見えてきたのです。

実は、彼の行動にも「何かを求めているように」感じたからです。

しばらくして彼がなぜ私に辞める挨拶をしにきたのかが分かりました。原因は、彼と仲の良かったアルバイトが彼が辞めると聞いて連絡を取りました。そして「最後にご飯を食べに行こう」ということになり話をしました。

アルバイトは「何で僕に相談してくれなかったんですか?」と問い詰めたそうです。すると彼は「すみません。気にしてもらって・・・」これに対してアルバイト君は「いや、僕に謝らなくてもいいから、期待していた熊さんとかパートさんとかに謝るべきでしょ?」と言いました。

この話をアルバイト君から聞いた私はアルバイト君に・・・

「別に謝りに来させる必要はないと思うよ」

「えっでも社会人としての礼儀だと思うのですが?」

「いや、みんな消えるように辞めていってるから」

「そんなもんなんですか?」

「それに可愛そうやんか?」

「何がですか?」

「普段会ってない先輩に辞める挨拶をしにいくって気が重たいやんか?直接一緒の店で働いてるんやったらそれが礼儀やけど他店やから、あいさつするしないは本人の自由だと思うよ」

普段頑固なアルバイトですが、この時は「そうですか」とあっさり私の話を聞きました。

しかし、もやもやとした気持ちはさらに大きくなりました。

そのもやもやとした気持ちの原因は・・・

かつて、私が居酒屋の師匠に言われた言葉「お前のその行動は何かを求めているように見える」の中のその何か?なのです。その何かを知りたくなりました。

今回、私に挨拶をしにきた後輩社員にも、その何かを感じたのです。私はその何かを考えました。

辞める時に周囲へ挨拶をする時の心理です。

1 「どうして辞めるの?」と理由を聞いてほしい。
2 「いいなー私もやめたいなー」と羨ましがってもらいたい。
3 「えっ辞めるの?もったいない」と言ってもらいたい。
4 「こんな会社辞めて正解だよ」と言ってもらいたい
5 「あの人いい人だったよね」と後で言われたい。
6 「次何するの?」と聞いてもらいたい。
7 「だからお前は駄目なんだ」と叱ってもらいたい。
8 「寂しい」と言ってもらいたい。
9 「辞めないで」と引きとめてもらいたい。
10「新しい世界でがんばれ」とエールを送ってもらいたい。
11「何が不満だったの?」と会社に対する不満を聞いてもらいたい。
12「気の毒に・・・」といかに自分の扱いが不当だったかを聞いてもらいたい。
13「辞めた後も顔を見せてね」と言われたい
14「あいつ何も言わずにいなくなった」と悪口を言われたくない。

こうして見てみると数多くの心理があることに気付きました。かつて、居酒屋を辞める時の、先輩へのあいさつ回りについて「お前の行動は何かを求めてるように見える」と言われた時。私は何も求めていないつもりでした。社会人として礼儀を尽くしただけでした。

しかし、表面上の心理だけを見ていました。

心の奥底には自分が気づいてない心理が合ったと思うのです。「どうして辞めるの?」「いいなー私もやめたいなー」何かしらの言葉を心の奥底で求めていたような感じがするのです。私は、それを見抜いた師匠の洞察力に舌を巻きました。

無理して挨拶に来なくていい

今回の後輩社員君が辞める理由は、「自分にはもう無理だと思ったから」です。確かに一緒に働いたことのある後輩君なので寂しい気持ちはあります、

しかし、別に謝りに来る必要はないと思うんです。「熊さんにはいろいろ教えてもらったから」という理由ですが、教えるのは当たり前で、それが生かされなかったとしても、それはそれで仕方がないことです。

彼は「社会人としての礼儀だと思うのですが?」と言いましたが、みんな消えるように辞めていってるんです。

辞める時って、そんなものだと思うんですね。それに、普段会っていない先輩に辞める挨拶をしにいくって気が重たいと思います。

直接一緒の店で働いているのなら、それが礼儀だと思うのですが、他店です。「ごめんなさい」なんていらないし、無理してあいさつ回りはしなくていいと私は思います。

まぁ、よっぽどかわいがってもらっていた先輩だったら、別ですが、その辺は本人の自由でしょうね。