ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

ごめんな。俺、あの時なにも言えなかった。

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一生の宝物にしたい友人との思い出話

高校時代からの友達である鹿田君(仮名)は、「類は友を呼ぶ」と言う言葉通り、私と同じモテない君でした。

「どうすれば彼女が出来るんだろう?」

「俺達このままいったら一生結婚出来ないんじゃないか?」

二人で飲みに行くと終始女性の話ばかりしていました。 しかし、そんな鹿田君に彼女が出来ました。残念なことに私よりも先にです。

しかし、昔からの友人なので自分のことのように喜びはしました。 実は鹿田君は、私と同じ彼女いない歴が年の数だけあった男ですが、私と違う点がありました。

鹿田君は男である私の目から見ても、「なんでこんな男に彼女がいないんだろう?」と思うほど、良い男でした。

なぜ、こんなにいい男なのに?

ルックスも悪くないし、服のセンスも良いし、話し方もしっかりしていました。今まで、彼女が出来なかった理由は自分から動かなかったからでしょう。

つまり、鹿田君は、本気を出したら彼女を作るのが簡単な男です。鹿田君はそれを知らずに私とつるんで、「あああ・・・・何で女が出来ないんだろう」と嘆いていたのでした。面白い男です(笑)。

行動を起こさずに彼女が出来る男なんて私の知る限りほとんどいません。 黙っているだけで女性から、「付き合って下さい」と言われる男はよほどの男です。

それを鹿田君は気づいてなかったのでしょう。 そんなこんなで、鹿田君は、私と飲みに行く回数が減りました。彼女との時間を大切にしたのでしょう。

私は温かく見守りました。学生時代からの大切な友だからです。 そんな鹿田君は彼女と結婚を前提に付き合い、お互いの両親にも顔を合わせに行きました。

そして、結婚が秒読みという段階に来た時、ある悩みを私にしてきました。実は彼女には以前付き合っていた彼氏がいてて、しかもちゃんと別れた状態でなく・・・

別れてからも、友達として付き合っている男性がいたのです。

彼女は、結婚する前にそのことを鹿田君に話したそうです。彼女と別れた元彼氏は、今になって未練がましく言いよってくるようになりました。

彼女自身も気持ちを整理したいけれど、人生で最初にお付き合いをした男性に対する複雑な心情があり、モヤモヤした気持ちになっていたそうです。

そこで、最後に、この関係を終わりにして気持ちを整理したいと言ってきました。それは、「最後に元彼氏と二人きりで話をさせてくれ」ということでした。

しかも、元彼氏の部屋でです。 なんで、元彼氏の部屋なんだろう?喫茶店じゃだめなのかな?と疑問に思いましたが、色々と事情があるそうです。

そこで、鹿田君は、私に付いてきてほしいと言ったのでした。 彼女が元彼氏と会っている間、気が狂いそうだからそばいてほしいと言う願いでした。

元彼氏にきちんと別れを告げる彼女

友人のお願いに二つ返事でOKを出し、彼女が元彼氏の部屋に行っている間、私たちは車で待機をすることになりました。

鹿田君は、彼女に、「これが本当に最後だから、本当に思い残すことのないように話をしたらいいよ」と言っていました。

同じ男として、この言葉を言うのはとても辛かっただろうと想像出来ます。 そして待つこと、30分・・・・彼女はまだ出てこないのです。

さらに1時間が経過しました・・・・彼女はまだ出て来ないのです。 鹿田君が横で大きなため息をつくのです。 私は友達として何が出来る? 友人として、今俺に出来ることは何だろう?

必死で考えました。どんな言葉をかけたらいいのだろう?しかし気の利いた言葉は出てきませんでした。

待っている時間、一言二言は声をかけましたが、その内容は、はっきりと覚えていません。

ほとんど無言で緊張した空気が二人のいる車内に流れました。

どんな言葉をかけたらいいのか?考えて頭に浮かんでくる言葉はどれも、いまいちな言葉なのです。

それに私は当時、女性とまともに付き合ったことのない男です。 女性の心理とはこういうものだと言うこともアドバイスできませんでした。

そんな重たい空気が流れる時間が1時間以上すぎたころ、彼女が車に戻ってきました。

「大丈夫だった?」

「うん」

「もう思い残すことはない?」

「うん」

鹿田君の精いっぱいの問いかけに小さくうなずく彼女。その間、私は無言でした。心の中では、「何か言わなきゃ」と思いつつ、もう一つの心が、「何かを言うことを拒絶していたのでした。

その後、めでたくゴールインした鹿田君は、後日、私にその後の彼女との会話を教えてくれました。

彼女はきっぱりと友達としても付き合えないことを元彼に言うと、最後に・・・ 「抱かせてくれ」と言われたそうです。

断ると、「服を着たままで、何もしないから、本当にこれが最後だから、これできっぱりと気持ちを整理するから」と言われ・・・服をきたまま、軽く抱かれたそうです。

 

そして、最後にキスだけしたそうです。それ以上の男女の関係はなかったそうです。正直に答えてくれた彼女を鹿田君は許しました。

過去のことは問わない。過去を捨ててくれたのだから、それでいいという気持ちだそうです。ここで私はある疑問を彼に聞きました。

「ごめんな。俺、あの時に何か言ってあげたかったけど、何も言えなかった」

「俺、女と付き合ったことないから、何のアドバイスも出来なかった」

すると彼は、 「いや、熊に付いてきてもらってあの時は良かったと思ってる。何と言っても、高校時代からの友達だから、大人になってから出来た友達と違って無責任なアドバイスは絶対しないと思っていた」と言ってくれました。

「何も言わなくてもいてるだけで価値があったと思ってるねん」

「横にいてるだけで安心やねん」 自分のことを「いてるだけで価値がある」と認めてくれた友人。学生時代から付き合いのある男は本当に少ない私ですが、少ないからこそ、その存在は、一生大事にしたいと思うのでした。