安い商品ほどクレームが多いのは、価値あるものが安くなっていると思われているからです。
安い店ほどクレームは多い
かつて上司に、「商売というものは価格を下げれば下げるほど文句を言う客を引き寄せるんだよ」と教えられたことがあります。
それまでの私は、安ければ安いほどお客様の満足度が高まると思っていたので、この上司の言葉には衝撃を受けました。しかし、その理由を聞いて、それもそうだなと思いました。
安い店にクレームが多い理由
過酷な価格競争に打ち勝つためにコスト削減で品質よりも安さを優先させてしまい、その結果商品の質が他の商品に比べて劣ってしまう。
安さを追求するために人件費を減らされ、残された従業員は少ない人員で多くの業務をこなさなければいけないというストレスで、丁寧な接客が出来ずに、結果、接客レベルが低下する。
安さを追求する店がある一方で、少々高くても本当に価値のあるお客様が満足してもらえるものを提供しようとする店も存在する。そんな店と比べられることでお客様の不満が生じる。
上司からこのような理由を聞かされ、「それもそうだな」と納得した私。だからと言って納得できない気持ちもあります。
理由に納得できないのではなく、安いのだから、お客様にも価格相応への一定の理解を示してほしいと思います。
それに、今さら、安いということは、それなりの理由があることは誰でも分かっていることで、ここで書くほどでもないからです。
なので、私は、この上司から聞いた3つの理由以外に、もう一つ別の理由があるのではないかと考えたのです。
お客様が安い理由を理解していない
それは、「お客様が価格相応というものに理解を示されていない」という理由です。
旅行代理店に勤めている私の友人も同じことを言っていました。安いツアーを選ぶお客様ほど、「料理が貧相だ」「部屋が小さくて、設備も古い」とクレームを入れてくる率が倍になるそうです。
最初に説明していても、「聞いていなかった」「損をした」と言われることもあるようで、どうして分かってくれないのか?と困惑することもあるそうです。
もちろん安くてもそれに理解を示されて、マナーも良いお客様も多いそうですが、どうしても、クレームの発生する率は高まるそうです。
クレームに「それは安いからですよ」は危険を伴う
そういう時には、「安いんだから文句を言うな」と言いたくなる心理が生まれます。
「どうして分かってくれないんだ?」と。
「あなたは、安いものを選んだからこうなったんですよ」と説明したくなります。しかし、これはとても危険を伴うことだと思います。
その理由を書く前に、一つご紹介したい私の経験談があります。
「安いのに文句を言うな」と言う気持ちを前面に出してしまうと大きくお客様の怒りを買うことに気付かされた出来事です。
「客を貧乏人扱いするな」
勤め先の食品スーパーで40代後半と思われる女性のお客様が私の後輩君に怒っていました。
「お前のところは客を貧乏人扱いするのか?」と怒られている後輩君。すぐに私が駆け
付け、事情を聴きました。
そのお客様は先日、当店で一番値段の安いお餅を購入されました。しかし食べてみると
思ったよりもおいしくなかったそうです。
そして、後輩君に、「この前買った餅は美味しくなかったよ」と言いました。その後の会話です。
後輩君 「申し訳ございません。それは一番安いお餅ですから」
お客様 「何を言ってるんだ。お餅の味がしないから言ってるんだよ」
後輩君 「それは安いお餅だからです」
お客様 「そんなこと言われたら気分が悪い。私は安いものを買いに来てるんじゃな
い。美味しいものを買いに来てるんだ」
そして、私と後輩君で必死に謝罪し、何とか許してもらうことが出来ました。その後、後輩君に話をしました。
安さで集客している店で勤めていると忘れがちなこと
私 「『安いから』と価格相応に理解を示すように言いたい気持ちは理解できるよ。でも、それは言わずに我慢すべきだよ」
後輩君 「じゃあどうするんですか?」
私 「余計なことを言わずに、ただお客様の気持ちに理解を示して謝るしかないと思うよ。納得できない気持ちもあるけれど、それが接客なんだよ」
私は後輩君の気持ちが痛いほど分かります。なのでこのように話をしました。では、なぜ後輩君は腹が立っていたのか?それは・・・
安いものに文句を言うお客様に従業員が生じる気持ち
- 安いから文句を言わないでほしいという気持ち。
- そんなにいいものを買いたければ他所に行ってほしいという気持ち。
- 価格の高いものと比べてほしくないという気持。
しかし、それは売り手目線です。あの時のお客様に、「私は安いものを買いに来ているのではない。いいものを買いに来ている」と言われ、安売りの店で働くうちに忘れがちなことをもう一度思い出させてもらうことが出来ました。
安いものは、損ではなく得をするものと言う心理は根強い。
では、なぜそれほどまでにお客様は、「安い」と言う理由に納得を示しにくいのでしょうか?今回私は、必死で謝罪するとともに、安い理由も説明はしました。
安い餅は、原料にもち米を使わずにもち粉とでんぷんを使っています。そのため普通の価格のもちよりも風味は落ちるように思います。
しかし、「そんなのは、そっちの都合でしょ」と言うことで、理由の説明よりも、ご気分を悪くされたことに対する謝罪を必死に行うことで、なんとかご容赦いただけました。
つまり、安い理由を知ったところで、損をさせられたという気持ちの方が根強いのです。人間の心理として、得をした時よりも、損をした時の方が感情は大きく動きます。
良いものを1円でも安く買いたいというお客様に理解を示す。
今回の問題はお客様の言葉、「私は美味しいものを買いに来ているので、安いものを買いに来ているのではない」に尽きると思います。
逆の立場で考えると、私も店を一歩外に出ると一消費者として様々な商品やサービスをお金を出して買います。
特に今はネット全盛期です。どうせ買うなら最安値で買いたいと思います。しかし、ネット上には様々な情報が飛び交い、なかなか自分が求めるもので、もっとも安いものというのはそう簡単には見つかりにくいことがあります。
そうして、目を皿のようにして、やっと見つけた最安値。こういう時って妙に期待が高まるんですよね。
苦労を重ねれば重ねるほど、見つけたものに対する期待が高まるという法則です。そんな時は、「得をした」という満足感がとても大きくなります。
そんな期待値が高まっている状態で、「安い価格なりのもの」が手元に届くと、そのショックが倍増するんです。
そういう時は一消費者として、「私は安いものを買いたいんじゃなく、いいものを買いたいんだよ」と叫びたくなります。
まぁ、私の場合は、そう思っても「これもいい勉強だ」と割り切るようにしていますけど。それでも、そういうお客様もいるって言うことです。
説明よりも謝罪に重点を置く。
なので、私は、安易に「安いからですよ」という説明は危険だと思うのです。期待値が妙に高まっていることが考えられるからです。
もちろん、本当に良いものが、いわゆる大出血サービスで安くなっていることもありますが、そうでなく、安い理由のある商品が、お得な商品に見えていることが多いのです。
そう言ったお客様には、まずは期待を大きく裏切ったことに対する申し訳ない気持ちを前面に出すことが必要です。それが、ややこしい話にならずに済む近道でしょう。