相手に非を認めさせたい気持ちにとらわれると引き際を間違える
取り置きしているのに取りに来られない
納得がいかないことをされると、その相手に非を認めさせたい。そして謝ってもらいたい。そんな気持ちが原因で大きなトラブルになることがある。
食品スーパーで商品の管理をしている立場である私は、数日前に取りに来られるはずの取り置きの商品がまだ取りに来られていないことで、お客様に電話をすることにした。
取り置きの商品は缶詰が10缶だけだ。賞味期限も長くあり、しばらく置いておいても問題はないのだが、取りに来られるのかどうかはっきりさせたかった。
お客さんに電話をした
「プルルルルル」と呼び出し音が鳴った後、「もしもし」と年配の男性の声が聞こえた。
「いつもお世話になっております。私、○○スーパーの熊と申します」
「はぁ?どちらさん?」
「すみません。○○スーパーの熊と申します」
「あーどうも、何の御用ですか?」
「取り置きしている缶詰の件でお電話させていただきました」
「えっそれでしたらもう買いましたけど」
売り場から取ったのか?
そこで、「そうですか失礼しました」と言えば済んだ話だが、私はこの時、「せっかく取り置きしているのに、もしかしたら勝手に売り場から取って買ったのではないか?それだったら、私が取り置きしておかなくても良かったのではないか?今後その様なことはしてほしくない」と思い、お客様に問いかけた。
「すみません。それは売り場から取ったということですか?」
「だから言ってるでしょ。もう買ったんですよ。それよりもあなた、何を言いたいんですか?」
私の問いかけに正しく答えてくれなかったお客様に腹が立った。
「すみません。商品をまだ取り置きした状態でしたので、もしかして売り場から取って買われたのかなと思って聞いたんですけど・・・」
商品が取り置きされているということを伝えると、大抵のお客様は、「ごめんなさい。売り場から取りました」と非を認め、「次はちゃんと声をかけます」と言ってくれるのだが、このお客様は違った。
余計な一言で話が広がる
「だから言ってるでしょ。買ったって。何で何度も言わせるのですか?どういうつもりですか?」
後で思い返すと、「売り場から取ったのですか?」が余計な一言だった。しかし、この時から体が熱くなった。取り置きしているからには売り場からではなく、取り置きをしている分を買ってほしいということを、どうしても理解してもらいたくなった。
「私はあくまでも確認のためにお電話させて頂いています」
「だから、何度同じことを言わせるのですか?買ったって言ってるでしょ」
2人とも熱くなっていることが雰囲気で分かった。
「お宅ねー買ったものをさらに買えと言ってきてるんですか?」
「いえ、そういうことは言っておりません。確認のためにお電話させて頂いただけです」
「だから何で、何度も同じことを言わせるのですか?」
これ以上確認を求めてもお客様の怒りが大きくなるだけだと思い「申し訳ございません」と謝った。しかし、お客様の怒りは収まらなくなっていた。
「お宅お名前は?」
「熊と申します」
「ちょっと本社の電話番号を教えてくれますか?」
そして電話番号を教えたところで電話はきられた。
目先の勝ちにとらわれていた私
その後、私は上司に注意された。私には、「せっかく取り置きしていたのに、勝手なことをされたら困る」と言う気持ちが強すぎた。缶詰は賞味期限が長くあり、しばらくの間取り置きしていても困るものではない。それなのに、取り置きしていたことを無視したお客様に非を認めさせて謝らせたかった。その気持ちが強すぎて大きな反感を買った。
「相手を言い負かせたい」と目先の勝ちにとらわれていた。大事なことは言い負かすことではない。相手の感情を読み取り、スッと身を引く。それが大人の対応だ。
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単行本: 230ページ
出版社: 自由国民社 (2018/11/2)
筆者 ロバート・熊
イラストレーター にゃんとまた旅/ねこまき
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