ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

「駄目だったら戻ってきていいよ」と言う言葉は人の背中を優しく押してあげられる

工場でアルバイトをしていた頃、店長から「社員にならないか?」と声をかけられた。この言葉に大きく悩んだ。このままアルバイトでいるよりも社員になった方が待遇がいいのは分かるのだが、その分責任が大きくなり今よりも仕事が大変になるということが目に見えていたからだ。なので、「考えさせて下さい」と答えた。
店長は「どうして?熊君は最初、うちに来た時に『いずれは社員になりたいです』と言っていたじゃないか?」と聞いてきた。
確かに最初の頃は、いずれは社員になりたいと思っていた。しかし、アルバイトの状況でも充分に大変さを感じていたのだ。さらに責任が生じる社員になったらもっと大変になるのは目に見えていたのだ。さらに周囲の社員の大変さを普段から目にしていると、とても私には勤まらないんじゃないかという気持ちになったのだ。
なので、「自分には無理だと思います」と答えた。しかし店長は「無理じゃない。無理な人に声はかけない」と言った。店長はアルバイトとしての私の仕事ぶりを評価してくれたのだ。評価は嬉しい。しかし、もっと自信をつけたいと思ったのだ。社員になるのはそれからでも遅くはないと思ったのだ。
しかし店長は言った。「チャンスを断ると次のチャンスはないよ」と。私もこのままでいいと思ってはいなかった。いつかは社員になり、結婚して幸せな家庭を築きたいと思っていた。しかしこの会社でなくても他にもっといい会社があるんじゃないかという気持ちもあった。
そんな私の考えを見抜いていた店長は。「もっと他に自分を生かす場所はないかと考えているんだね。しかしそれが見つかっても前職がアルバイトであった場合と社員であった場合とでは面接の時の評価が変わることもあるんだよ」と言った。
「しかし、社員になってやっぱり無理でしたじゃ、格好つかないです」と返した。
店長は「無理だと思ったらまたアルバイトに戻ればいいよ」と言ってくれた。
この店長の言葉が私の背中を一番押したのだ。無理だったらもう戻る場所はないんじゃないかという気持ちを所長は取り除いてくれたのだ。そして私は社員になった。
アルバイト時代と違い、多くの仕事量に最初は心が折れそうになった。アルバイト時代は時間がくれば帰ることが出来たが、社員になると仕事が終わらないと帰れなかった。アルバイト時代は与えられた仕事をこなすだけだったが、社員はアルバイトに指示を出し、指導をしなくてはいけなかった。仕事の幅が広がり、難しさを感じた。しかし、その難しさが自己を成長させることを知った。
結局1年ほどその会社で社員として働かせてもらった。しかし、もっと違う仕事を経験したいと言う気持ちが強くなり、私は違う会社に転職した。
今でも私は店長に感謝をしている。あの時の社員として経験を積んだことがその後の仕事でも役に立ったからだ。