ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

自分の嫌なところを素直に認めることは周囲に認めてもらえることの第一歩

昔、工事現場で職人をしていた時のことだ。
2年間、茄子(仮名)先輩と同じ現場で働くことになった。茄子先輩は誰もが認める、凄腕の職人だった。この人のようになりたいと思った。
しかし、職人の世界で、仕事を覚えるのは難しかった。見て盗めという空気があり、手とり足とり教えてくれる世界ではなかった。そんな中でも茄子さんは、色々な技術を教えてくれた。可愛がってもらえて、人間的にも成長出来た。
なぜ可愛がってもらえたのか?そのきっかけは一緒に飲みに行った時のことだ。
私は茄子さんに不満をぶつけた。
「僕はどうして職人として下っ端の仕事ばかりでもっと難しい仕事を任せてもらえないのですか?」
すると、「お前はプライドが高すぎるからだよ。自分で自分に壁を作ってるんだよ。大体お前、人から仕事のことで指摘されたら、すぐに嫌な顔をするだろ?自分は出来てると思ってる顔なんだよ。そう言う奴は嫌われるんだよ」
痛いところを突かれた。しかし私は「ハイ、そうですか」と素直に認めるほど人間が出来ていなかった。認めるのが嫌だった。そんな私の表情を見て、「だから女にもてないんじゃないか?」ときついことを言われた。
女性にもてないのは事実だった。どんどん酒を飲んで行った。飲まずにはいられなかった。勢いでぐいっと、もう一杯、もう一杯、この時から半分記憶をなくした。
これからは茄子さんから聞いた話になる。酔った勢いで、他の客にやたらと話しかけて困らせた。周りに迷惑がかかると思った茄子さんは私を、外に連れ出した。
2人で歩きながら酔いをさまそうと言うことになった。しばらくすると公園が見え、そこで休もうということになった。
「お前、そうとう酔ってるだろ?」茄子さんの問いかけに
「酔ってません」
「酔ってるよ」「
「酔ってません」
そして、私は鉄棒で逆上がりをしようとした。酔ってませんとアピールしたかったのだろう。しかし、酔っていた私はなかなか足が上に上がらずにジタバタした。
何度も、何度も「うおー」「くそー」「酔ってなんかないから」と呻きながら挑戦した。必死で顔を真っ赤にしながら、なんとか逆上がりを1回やってのけた。
その瞬間地面に倒れた「おい、大丈夫か?」かろうじて立ちあがった私は叫んだ。
「僕は死にましぇん。だって、もてないんだから。だから、僕は死にましぇん」
当時流行っていたテレビドラマのセリフを真似した。目から涙が出てきた。
「いや、違うお前はもてる」
「嘘つかないでください」
「嘘じゃない」
「どうやって信じろと言うんですか?」
茄子さんは俺に抱きついた。そして叫んだ
「俺はお前が好きだー」
次の日、茄子さんに言われた。「俺、今まで色んな若い奴見てきたけど、お前みたいな馬鹿は初めて見た。俺は一旦嫌いになった男を、二度と好きにならないけど、そのポリシーを見事に覆したのがお前だ。だから、お前は凄い」
その後、茄子さんは、私を可愛がってくれた。仕事で、他の人よりも多くのことを教えてくれた。
様々なことを学んで成長する時期は素直になったほうがいい。格好悪い自分を見せたくない気持ちは成長するチャンスを失う。自分一人の力で成長出来る部分はたかが知れているからだ。
未熟な自分を認める姿勢は大事だ。成長出来るチャンスが与えられるからだ。