「毎日こんなに大変なんですか?」と新人に聞かれた時に先輩の器の大きさが問われる
上司不在で私が代わりにアルバイトの面接をすることになった。面接に来た彼の第一印象は大人しそうに見えた。
そして、体力がありそうに見えないので、「意外と重たいものを運ぶ仕事だけど大丈夫かな?」と聞くと、「大丈夫です」と弱弱しく答えてきた。
私は「大丈夫じゃないだろ?」と思った。しかし、そのことを上司に伝えると、「贅沢言ってられないから採用しましょう」と言われた。
求人を出してもなかなか人が集まらずに慢性的な人手不足になっていたからだ。だから、余程でない限り採用しようという考えになっていたのだ。
そして新人君の初日が始まった。彼は私の予想通り、重たい物を運ぶ時、動きがふらついていた。その様子を見て私は、「うーん。でも真面目で大人しそうで、指示したことにちゃんと従ってくれそうな子だから、まっいいか?」と思うようにした。
そんな彼から初日の仕事が終わった後、「えっ?」と思うようなことを言われた。
彼 「あのう、いつもこんな感じなんですか?」
私 「どういうこと?」
彼 「こんなに毎日ハードなんですか?」
どうやら彼にとっては、初日から思ったよりも仕事がきつかったようだ。しかし、私は彼に初日ということで出来るだけ簡単なことをさせていた。
しかし彼は、「まさか初日からあんなに重たい物を持たされるとは思っていませんでした」と言ってきた。確かに重たいものは持たせた。そこは認める。しかし、仕方がなかったのだ。
仕事で運ぶものは、軽いものもあれば重たいものもある。軽いものだけを選んで仕事をする訳にはいかない。
本来であれば新人には、最初からきつい仕事を与えて潰れてしまわないように配慮をするべきだ。弱音を吐かれても優しく「大丈夫だよ、すぐに慣れるからね」と言ってあげるのが筋だと思うのだが私は・・・
「何を言ってるの?初日だから簡単なことしかさせてないんだよ」
「本当はこんなもんじゃすまないよ。もっと大変だよ」
と言った。
そんな私も昔の職場で新人時代に似たような弱音を先輩にぶつけたことがあった。そんな時は「大丈夫だよ。すぐに慣れるからね」と優しい言葉をかけてくれる先輩もいたが、大抵は、「何を言ってるの?。本当はもっと大変だよ」と言われたものだ。
多く職場では新人には最初からハードなことをさせないからだ。そんな状況では先輩に対して優しい言葉を期待しても多くの場合は無駄だと気付いた。
しかし、逆に新人に不満をぶつけられる立場になって思った。「本当はもっと大変だよ」の先輩の言葉には、「これぐらいで弱音を吐くな。この先もっと大変な仕事があるからしっかりしろ」という新人への花束みたいな意味があることだ。
しかし、あの時の私が新人に送った花束はとても小さなものだった。何をそんなに弱音を吐いているんだと言う気持ちが大きすぎて、弱音を吐く新人の気持ちを理解してあげられていなかったのだ。新しい仕事ではみんな大変なのだ。
私は反省した。「本当はもっと大変なんだよ」と言った私の言葉は真実だったとしても、その言葉が「しっかりしろ」と言う新人への花束だったとしても「大丈夫だよ。すぐに慣れるよ。君なら出来るよ」と優しく背中を押す気持ちが伝わるかどうかで、その花束の価値は変わるのだ。