ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

同世代の凄い人と見比べた言葉をかけられた相手はみじめな思いをする

営業の会社に入社して間もない頃、そこの30代後半の若い2代目社長に憧れた。社員を前にして檄を飛ばす姿がとてもかっこよかった。仕事に対する熱い情熱をとても迫力のある声で語り、私たち社員の心に熱いものを注ぐような話をする方だった。聞く人をぐいぐい引っ張っていくような社長のスピーチに「このような人になりたい」と私は強く思った。
そんな私の誕生日に、社長から封筒が郵送されてきた。中を開けると驚いた。「私が選んだネクタイです。よろしければ使って下さい」という手紙とともにピンク色のネクタイが入っていた。とても嬉しかったがその当時ピンク色のネクタイは自分の趣味ではなかった。ネクタイは出来るだけ地味なものを選んでいたからだ。だからすぐに使わずにタンスの中にしまった。
私はまだ新入社員で3カ月の研修期間中だった。色々な先輩社員の後ろにつき営業ノウハウを教えてもらっていた。どの先輩も、それぞれ個性は違うものの、しっかりとした仕事ぶりで、とても勉強になった。それぞれの個性から自分に合うものはどれか?自分が目指したいスタイルは何か?と模索した。
ある日、30代後半のちょっと物静かな感じの先輩に同行することになった。先輩は、ゆっくりと優しい感じで話す人で、お客さんに受けがよかった。しかし私が目指したいスタイルではなかった。私が目指したいスタイルは社長のようにぐいぐい人を引っ張っていくようなスタイルだった。
その日はたまたま社長から頂いたネクタイをしていた。ピンク色は趣味に合わなかったのだが、その日はなぜか着けて見たくなったからだ。先輩は「とてもいい柄のネクタイをしているね」と褒めてくれた。普段は地味なネクタイばかりを着けている私はネクタイを褒められたことはなかった。だから驚いた。社長が選んでくれたネクタイはそれだけセンスがあるもんなんだと感心した。そして「実はこれ、社長から誕生日プレゼントで頂いたネクタイです」と言った。
そこから社長の話で盛り上がった。社長は社員思いで、毎年社員の誕生日には手紙とプレゼントを送ってきてくれること。社員が集まる集会では一人一人にとても熱い言葉をかけてくれることを先輩は教えてくれた。さらに先輩は「実は俺、社長と同じ年なんだ」と教えてくれた。この言葉に後で思い返すと失礼なことを言ってしまった。
「へぇ~、社長と同じ年ですか?そう考えたら社長って貫禄があって凄いですね」
心のどこかで先輩と社長を見比べた上での言葉だった。そのことに感づいた先輩は少しの沈黙の後「でも、今の君があの社長のような貫禄を身につけたら嫌われるよ」確かにその通りだと思った。
それから20年以上が経ち、若い後輩に「私は部長と同じ年なんだよ」と言ったことがある、すると若い後輩は「へぇー、部長と同じ年ですか?それにしては部長って若く見えますね」と言った。因果応報のようなものを感じた。