ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

ご飯を食べるのを遠慮する雰囲気はやる気を阻害する

食品スーパーに入社して3カ月が経った頃、新規オープンの応援の仕事があった。各店から社員が応援に集まり、大人数での営業になった。開店前から長い行列が出来た。そのあまりにも長い行列のため、入場制限をすることになった。一気にお客様を店内に入れたら身動きが取れなくなるからだ。ある程度の人数で区切ったのだが、店内はお客さんでいっぱいになった。レジに長蛇の列が出来た。商品が飛ぶように売れて、商品の補充と、お客様からの問い合わせに追われ、とても忙しかった。
オープンして最初の2時間ぐらいは、店内がお客様で埋め尽くされた感じになり、従業員も身動きが取れにくい状態になった。開店前の長い行列が全てなくなってから、多少店内は落ち着いた。
昼になり、お腹が空いた。しかし、勝手に昼ごはんを食べに行くわけにはいかないと思い、上からの指示を待った。しかし、2時になっても指示がない。もしかして、忘れられているのか?入社してまだ3カ月しか経っていない。だから、他の社員と面識がほとんどなかった。ただ一人だけ面識があったのが先輩の山田さんだった。そう言えばこの人、昼ごろに1時間ほど姿を見なかった。もしかして先にご飯を食べに行ったのかな?そう思い、恐る恐る聞いてみた。
「山田さん、ご飯行きました?」すると「行ったよ。熊さんはまだなの?こんなに人数がいてるから行ったらいいよ」と言われた。遠慮して行かなかった自分が悪いと思った。そして昼ごはんを食べに行った。場所はハンバーガーショップ。どうせ勝手に行ってくださいという姿勢なのだから、少しぐらい長く休憩してもいいだろうとのんびりさせてもらった。
そして、店に戻った。店はそれほど忙しくないように思えた。オープンして2時間ほどが、あまりにも忙しかったので、今は落ち着いているように見えた。しかも従業員の数が多いので、やるべき仕事もそれほど多くはなかった。手が足りている状態だった。それまで面識のない社員たちが、声をかけに来てくれた。「入社してどれぐらいですか?」私は「3カ月です」と答えた。するとその面識のない社員たちもそれほど社歴が長いほうでないことを知った。
いろいろと話が出来、交流を深めることが出来た。しばらくして、もくもくと作業する社員が気になった。この人はずっと一人で頑張っている。もしかしてと思い聞いてみた。「ちゃんと休憩取ってますか?」すると彼は休憩どころか昼ごはんも食べてないことが分かった。しかも入社して今日で5日目だそうだ。「遠慮せずに行ったらいいと思いますよ」と言うと、彼は「もういいんです」と言った。
その2日後、私はまた、その店に応援にいくことになった。朝、事務所に入ると、そこの店長が上司に怒られていた。理由は入社して5日目の新人が辞めると言ったからだ。その新人は会社に電話をして、店長が昼ごはんの時間を作ってくれなかった」と言ったそうだ。上司は言った。「入社したばかりの社員が、自分の判断で昼ごはんを食べに行くのはためらうものだろ?そんなことも分からないのか?それが人の上に立つものの仕事か?」と怒っていた。私は思った。あの彼だ。彼はあの時「もういいです」と投げやりな返事をしていた。あまりにも、ほったらかしにされているようで、頭にきたのだろう。