ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

勝負には恐怖心がつきものだから成長出来る

健康食品の営業の仕事をしていた時の事。そこはお客さんを会場に集めて、お勧めの商品を紹介して、注文を取る会社だった。そこでは多くの注文が取れれば取れるほど給料が多くなった。
なので、注文をしてくれそうなお客さんに、いかに早く近づくかが勝敗を分けていた。
そして簡単に注文してくれるお客さんから注文を取り、最後の最後まであきらめずに、悩んでいる人の背中を押すことも大事だった。
しかし焦ると逆に注文が取れなくなることも多かった。焦ると売りたいという気持ちが前に出すぎてしまうからだ。商品がどんなにいい物であっても、売りたい気持ちが前に出ているとお客さんは気持ちが遠ざかってしまう。自分が注文を取りたいから勧めるのでなく、あくまでもお客さんのためを思って勧めることが大事だった。
お客さんは自分の数字のために勧めてくる営業マンよりもお客さんのためを思って勧めてくれる営業マンに心を開くものだからだ。ちなみにお客さんには、私たちには個人成績はないといっていた。しかし、裏では個人成績が存在していた。注文を取るたびに注文ノートの担当者の欄に自分の名前を書き、そして最後のミーティングで店長から褒められる人もいれば、怒られる人もいてた。だから認められたい一心でお客さんに商品を勧めた。 
入社して最初の頃は多くの空回りを経験した。もうちょっとで注文してくれそうな人に、「後でなく今すぐに注文して下さい」と急がした時、「慌てる乞食はもらいが少ないよ」と言われ、しばらくした後に違う営業マンに注文をされたこともあった。そういう苦い経験を何度も積むことにより、お客さんを前にしても焦りを表に出すことをしなくなった。 
もちろん心の中では焦りはあった。ノルマがあるからだ。しかしノルマというものはお客さんには関係がないことだ。上手い営業マンは売りたいという匂いを消すのが上手かった。世間話をしている感じでお客さんとコミュニケーションを取り、心を開かせて、ここぞと言う時にしっかりと商品を勧めて注文を取っていた。自分もそうなりたいと思った。 
そんな中で一人の新入社員が入ってきた。彼はとても声が大きく、元気でガッツがあった。とても負けず嫌いな性格でどんどん私たち先輩の営業成績に近づいてきた。彼は勝負好きだった。
彼は営業成績で私に勝負を挑んできた。先輩として後輩に勝負を挑まれると断りにくい。だから受けたのだが、プレッシャーが大きくのしかかって、売りたいという気持ちがいつも以上に前に出てしまい空回りをした。ある日から彼との勝負を避けるようになった。理由は勝負をすると焦るから。焦るといい仕事が出来ないからだと説明した。
彼はそれでも違う先輩に勝負を挑んでいた。しばらくして、彼が大きく成長をしていることに気付いた。勝負のプレッシャーが彼を強くしている。彼はどんなお客さんにも動じずに堂々としていた。自信が体中にみなぎっていた。彼は出世して店長になった。
それに比べて私はどうだ。個人成績の存在に大きなプレッシャーを感じて、いつもびくびくしているように思い情けなくなった。