ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

自分はこうだからと頭から相手を信用すると好き勝手にされることがある

ヘビースモーカーの後輩君がいた。その後輩君について、アルバイト君に「熊さんは完全に騙されてますよ」と言われた。
当時研修中だった後輩君はレジに入っている時に時折だが「お腹が痛いのでトイレに行っていいですか?」と言ってくるのだ。生理現象だから仕方がないとその都度代わってあげたのだが、アルバイト君によるとどうも煙草を吸っているのではないかと言うのだ。
しかし、後輩君は2分ほどで戻ってくるのだ。これが5分ぐらい戻って来ないと「何かしてるかも?」と疑うのだが、ほんの少しの時間だけで戻ってくるので「さすがにこんな短い時間で煙草なんて吸わないだろう」と思ったのだ。
そのことをアルバイト君に言うと「熊さんは人を疑わないから好き勝手にされるんですよ」と言われ、それもそうだなと思ったのだ。後輩君は月に3万円以上煙草代に使っているそうだ。それほど好きでたまらないのなら、ほんの短い時間でも我慢が出来ないのかも知れない。
さらにアルバイト君の話によると、アルバイト君にも時折「トイレに行くから代わってほしい」と言ってきてたのだ。しかし、トイレから帰ってきた後輩君から煙草の臭いがぷんぷんしていたので「トイレぐらいレジに入る前に済ませておいてください」とキレ気味に言うと、アルバイト君には言ってこなくなったそうだ。
 そして代わりに、疑うことのなさそうな私に「お腹が痛いから・・・」と言ってくるようになったのだ。そこで私はアルバイト君とある作戦を立てた。ある日、いつものように後輩君が「すみません。ちょっとお腹が痛くなって、すぐに戻ってきますので、レジ代わって下さい」と言ってきた。私は作戦通り、彼がトイレに向かった後、すぐにアルバイト君を呼び、アルバイト君にレジをしてもらい、早足で喫煙所に向かったのだ。
すると、煙草を吸っている後輩君の姿がそこにあった。彼は私の姿を見かけると、ハッと驚いた表情で煙草の火を消して、レジに戻ろうとしたので「イヤイヤちょっと、ちょっと・・・」と呼びとめた。
「どうして俺がここに見に来たか分かる?」
「えーと・・・」
「みんな見てない様で見てるんだよ」
「アルバイトは決められた時間までずっと煙草を我慢してるんだよ」
「それに対して社員が頻繁に煙草を吸っていたら示しがつかないだろ?」
 この時私は「ここまでして煙草を吸いたいものなのか?」と彼の行動に驚いた。そして、アルバイト君から「疑わないから好き勝手にされる」と言われたことは本当なんだと思ったのだ。
あの時の私は、自分が煙草を吸わないからと言って吸う人の気持ちを理解しなかった。
だからこそ、ここまで嘘をついて煙草を吸いに行きたいのか?と驚いたと同時に、もっと早い段階で気付き、注意すべきだと反省したのだ。感心を持たなかったから、疑わなかったのだ。そして疑わなかったから好き勝手にされたのだ。
 職場には様々な個性が集まる。自分が休憩を惜しんで一生懸命にするタイプだからと言って他の人がそうと言うわけではないのだ。
つまり、自分がこうだからと、頭から相手を信用すると好き勝手にされることがあるということだ。