ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

転職を繰り返しても自分にちょうどいい忙しさの職場には出会えない

その日はとっても忙しかった。一人のアルバイトが私に「目が回るほど忙しいですね。こんなに忙しいのが毎日続いたら死んじゃうかも知れません」と言った。「死んじゃうかも?」というのはもちろん冗談だと思うが、その言葉にぷっと笑ってしまった。確かに私も忙しすぎる時は「死んじゃうかも?」と思う時があるからだ。
テレビとかで過労死のニュースを見る時がある。あまりにも度が過ぎた忙しさは人を死に追いやる。忙しすぎるのは危険だ。忙しい時ほど暇のありがたさを感じる。しかし忙しい仕事を選んだのは自分だ。なぜ忙しい仕事を選んだのか?私の場合、安心して家族を養いたかったからだ。
今の職場である食品スーパーで働く前は焼き鳥屋を経営していた。駅から離れた静かな場所で、お客様はほとんど来なかった。赤字が何カ月も続いた。暇で店の中のテレビを眺めて時間をつぶした。暇なので体は楽だった。しかし将来の不安で頭の中がいっぱいになった。このまま赤字が続けば貯金が底をつく。そうなれば家族を養うことが出来ない。忙しくても生きていける方がいい。そう思い焼き鳥屋を辞めた。
辞めた後、求人雑誌を見た。出来るだけ忙しい仕事がいいと思った。何故なら暇な仕事で不安を抱えるのはもう嫌だと思ったからだ。そこで見つけたのが食品スーパーの仕事だった。スーパーは毎日多くのお客さんが来店する。レジ打ち、商品の補充、倉庫整理、やることはいっぱいあるはずだ。暇を持て余すことはないはずだ。
早速入社を決めた。想像通り、やる仕事が多く、日々の仕事に追われる毎日だった。想像はしていたが毎日毎日、仕事に追われる状態にうんざりしてきた。あれほど暇な仕事は嫌だと思っていたのに、いざ忙しい仕事に着くと、やっぱり暇な仕事の方がいいと思うようになった。自分で選んだ仕事なのにどうしてこんな仕事を選んだのか?悔んだ。
じゃあどうすればこの忙しいというストレスから解放されるんだ?辞めて、暇な仕事を見つけるのか?その時にストップをかけるのが「初心忘れるべからず」という昔からのことわざだった。あの時、忙しい仕事を選んだのは自分じゃないか?なぜ忙しい仕事を選んだのか?それは暇な仕事はもう嫌だと思ったからじゃないか?そこで暇な仕事に戻ってどうするんだ。また暇な仕事は嫌だという気持ちに逆戻りするんじゃないか?そう思うと辞めようとしていた自分の考えがとても浅はかなものに感じた。
忙しい時は暇に憧れ、暇な時は忙しさに憧れる。なんとも都合のいい考えだと思った。
本当に自分が何を求めているのか?忙しいことで得られる充実感か?暇で得られる心のゆとりなのか?何度も転職を繰り返したが、ちょうどいい忙しさに出会うことはなかった。結局どこかで自分が納得しなければ長続きしない。そんな気がした。