ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

「規則だから出来ません」では納得されないことも想定しないと大きな時間をとられる

お客様は購入した一升瓶のお酒を買ってから、袋詰めをする台に置いたまま、その場を離れ、買い忘れていた物を買っていたそうだ。するとその間に置いていたはずのお酒が消えていたそうだ。そして従業員が疑われた。
「従業員が盗ったんじゃないの?」
「いえ、そういうことはしません。万が一ここに置いてある商品を持って行く時は忘れものとして必ずお預かりしますから」
「じゃあ、どうしてなくなるの?」
「もしかしたら別のお客様が持って行ったかもしれないですね」
「まぁ、とにかく私が買ったのは間違いないよ。レシートもちゃんとあるからね。だから早く持ってきてくれる?売り場にまだいっぱい並んでいたでしょ?」
「申し訳ございませんが、そのようなことをすると、お客様が購入された商品以外にお渡しする事になるので、出来ないんです」
「それじゃ、金だけ払って手ぶらで帰れと言うこと?私は買ってない商品を渡せと言っている訳と違うのよ?ちゃんとレシートがあるのよ」
「購入されたことは分かるのですが、その商品はここからなくなったわけですよね。そうするとそれ以外にもう1本お渡しするということは出来ないんです」
「私はどう納得したらいいの?」となかなか納得されないお客様。そういうことならと私が防犯カメラの映像をチェックするということになった。すると、お客様がお酒を置いた瞬間もちゃんと映っていて、さらにその後、お客様がその場を離れた後に別の女性のお客様がそのお酒を袋に入れて持ち去るところもばっちり映っていた。そのことをお客様に伝えた。
 すると、「その映像を見せてくれ」と言われた。しかし、会社の決まりで防犯カメラの映像をお見せする事は出来ないと伝えると・・・
「何言ってるの?それぐらいどこでも見せてくれるよ」
「申し訳ないのですが、規則なんで・・・」
「そんなことで納得出来ると思うの?」
「申し訳ないのですが規則である以上は勝手な真似が出来ないんで・・・」
「それだったら、子供が変質者に襲われた時でもあなたは、そんな言い訳するの?」
「いや・・・それは・・・」
「私は別に無茶な要求をしてないよ。ただ納得したいから言ってるだけなの。。あなたは店長さんか?」
「いえ、店長は本日公休になってまして・・・」
「それなら、上の人に相談してからものを言いなさいよ」と言うことで店長に電話をした。すると、本来は防犯カメラの映像はお客様に見せてはいけないのだが、店長が出した答えは「ややこしいお客様だから見せてあげて納得させてあげよう」ということだった。
そういうことで、お客様に事務所まで来てもらい一緒に映像を見てもらった。別のお客様に盗られた瞬間がばっちり映っているので、店の従業員が盗ったわけではないことが分かってもらえた。
後は警察に被害届を出すかどうかはお客様の判断になる。しかし、お客様から、「じゃあ、今から一緒に警察に来てくれるよね?」と言われ、「え?」と驚いた。
そんなに暇じゃないのだ。忙しいのだ。だから、「申し訳ないのですが、私たちにも店での業務があるので、ここまでの事しか出来ないんです」と言った。すると・・・
「それぐらい、どこでもやってくれるよ。それにここの店の中で起きた犯罪でしょ?店の外で起きた犯罪ならともかく店の中でのことでしょ?」
「お気持ちは分かるのですが、お会計が終わった後の商品の管理については責任を負うことが出来ないんです」
「そんなことはないでしょ?」
私はしばらく、やんわりと断り続けた。そしてお客様は、警察への被害届は自分でされることに納得されて帰った。久しぶりに難しさを感じる対応だった。
防犯カメラの映像をお客様に見せてはいけないのは会社の規則だ。警察や、裁判所の公的機関からの要請があった場合だけ、見せることが出来るのだ。
 個人情報の保護の観点から見せられないという理由は後から知った。あの時知っていたら、もっとスムーズに納得に至ったかもしれない。
 お客様の中には「規則だから出来ません」では納得されない人もいる。なぜ、その規則があるのか?そこまでをきちんと説明出来ないと納得されないのだ。