ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

昨日購入したという真っ黒になったミンチ肉を目の前に出され、疑った私の失敗談

「昨日買ったミンチ肉ですが・・・」

食品スーパーに勤めています、新人時代にクレームの対応で大きくお客様を怒らせたことがあります。

そのお客様はうちの店で買ったというミンチ肉を「これ・・・」という短い言葉だけで私に見せてきました。私は思いました。

「いきなり『これ・・・』と短い言葉だけで私にどうしろというんだろ?」と。

しかし、そのミンチ肉を見ると、とんでもないぐらい真っ黒に変色してました。お客様の「これ・・・」と言う短い言葉は「お宅で買ったミンチ肉がこんな色になったけれどどうしてくれるんだ?」と言う意味であることは明らかでした。

そのミンチ肉はありえないほど真っ黒に変色していました。通常では考えられないことなので私は思いました。

「これはお客様の管理の問題じゃないのかな?」と。

ちゃんと冷蔵庫で保存したのだろうか?
車の中に長い時間おいていなかったのだろうか?
そもそも買ってから日にちが経っているのではないか?

疑いの気持ちが生まれました。そこで私は「申し訳ございません」と謝った後、「確認させていただいてよろしいですか?」とお客様に質問しました。

「これはいつ購入されたものでしょうか?」

私 「これはいつ購入されたものですか?」
お客様 「昨日」

私は驚きました。昨日購入したミンチ肉がこんな色になるわけないだろ?と思いました。それに店に真っ黒なミンチ肉が並んでいたら誰も買わないでしょう。

ということは最初から真っ黒であったことは考えられません。

ここでさらに疑いの気持ちが強くなった私は・・・

「これは冷蔵庫で保管されたものでしょうか?」と聞きました。すると・・・

「お前は何が言いたいんだ?」と、お客様は私が疑いの目を向けていることを敏感に察知し、大きな声で怒鳴りだしました。

「冷蔵庫で保管するぐらい当たり前だろ?昨日買ったばかりの肉がこんなことになっているから持ってきてるんだよ」と。

さきほどまで、短い言葉しか発しなかったお客様からは想像もできないほどの言葉数で私は責められました。

結局、返金という対応をしたのですが、お客様は納得されませんでした。それは私の対応に対してです。

私が素直に最初から返金をしていたのならそれで納得して帰ってもよかったところ、疑いの目を向けられたことに腹が立ったのです。

「納得のいく答えをだせ」
「納得のいく答えを出せ」とお客様に言われました。

疑われて気分が悪くなった。どうしてミンチ肉がこんなに黒くなるんだ?ということに対する回答です。

そして「お前の上司から俺のところに電話をしてこい」と言われお客様は帰られました。

早速、上司と精肉担当に報告をしました。そして、精肉担当者に原因を求めました。すると・・・・

ミンチ肉はとても鮮度が落ちやすい肉だということです。

機械に入れる段階で多少熱が発生し、空気に触れる面も大きいため鮮度が落ちやすいです。

そのため、通常のブロックや切り落としの肉よりも賞味期限を短めに設定しています。

そして、賞味期限内であれば通常は大きく変色はしないのですが、それでも変色をする原因として考えられることは・・・

ミンチ肉は赤身と脂身の配合のバランスによっても鮮度の落ち方が変わります。水分の多い赤身の配合が多いとお肉の味わいはしっかりする分、鮮度は落ちやすいです。

そして、変色の原因としてあらゆる角度から考えると、冷蔵ケースの不具合・肉を輸送する際の温度管理の問題などもあります。

昨日買ったばかりのミンチ肉が真っ黒になることは極めて低い可能性ですが、何かの原因でそうなることは考えられます。

まったく可能性がゼロということではありません。

上司と精肉担当者が謝罪することでお客様は納得されました。

しかし、あの時のミンチ肉は常識では考えられないほど真っ黒に変色していました。ちなみに同じ賞味期限の同じミンチ肉が店に並んでいましたが、それはすべてきれいなピンク色をしていました。

あの時の私は「他の同じミンチ肉がきれいな色をしているのに、これだけ真っ黒なのはおかしい」と思いました。なので・・・

お客様に保管状況の確認が必要だと思いました。

しかし、それは慎重に、お客様のご気分を悪くしないように進めるべき問題でした。思い込みで話を進めてはいけないことでした。

実際に目の前にあるのは真っ黒なミンチ肉なのは事実であるから、「ありえないことだと思っても申し訳ないという気持ちを前にだしつつ、原因を調査するという意味で疑っているのではないけれど・・・という姿勢で保管状況を聞くべきでした。

つまり、保管状況を聞くことはお客様に非を認めさせるということではなく、精肉担当者にきちんと原因を調査してもらうための報告として聞くという姿勢が必要でした。

思い込みでの対応がとても危険なわけ

私が勤める食品スーパーでは、扱う商品数の多さから様々なクレームが入ってきます。そして当然のようにそのクレームの中には「もしかしたら言いがかりかな?」と思う疑わしいものがあります。

しかし頭から疑いの目を向けるとお客様は敏感にそれを察知し・・・

「対応した従業員の態度が悪かった」という二次クレームを引き起こすことがあります。

もちろんただの言いがかりをつけてくるお客様も中にはいますが、それに対しての事実確認の場では、慎重に言葉を選ぶ必要があります。

人と接する仕事をしていれば、形は違えども似たようなクレームに対応することは多いことでしょう。

そんな方の少しでも参考になれればと思い、クレームの現場では思い込みでの話は危険であるということをお伝えしたくて私の失敗談を紹介しました。