ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

労働環境の改善を試みる上司は部下からの信頼を得る

わずか数年で急激に営業支店を増やした会社に勤めたことがある。急成長する会社はこれほどまでに忙しいのかと思うほど、やるべき仕事の量が多かった。

一人一人に与えられる仕事の量がとても多く、長時間の残業や、休日出勤も多かった。しかも、それが当たり前のようになっていた。

段取り良く仕事が終わり、早く帰れる日でも周りの従業員が残業をしていると、帰りづらい雰囲気になっていた。まるで従業員の間で長時間働くことが美徳のようになっていた。

しかし、そんな会社で、年初めに、ある今年の目標が掲げられた。労働環境の改善だ。どうしてこのような目標が掲げられたのか?私達の間で「確かが会社の上層部に訴えたのか?」「誰かが労働基準監督署に訴えたのか?」と様々な噂が飛び交ったが、その真相は分からなかった。

とにかくやるべき業務が多く、長時間残業している社員がいることと、段取りが良く、早く帰れる社員も周りの目が気になって帰りづらい雰囲気があるのは事実だ。

会社として大きな問題である。では、どうすればいいのか?社員が集まり、会議が行われた。この会議はA常務が中心に行っていた。

社員から様々な意見が飛び交った。その中でも実現出来るような意見は採用された。さらに前年よりも使える人件費が若干ではあるが増えた。久しぶりに実りのある会議だと思った。

人件費を見直され、今までよりも多くのアルバイトを使うことが出来るようになった。つまり、社員一人一人の負担が減った訳だ。

しかし、いくら人件費が見直されたとはいっても、経営を圧迫するほどの人件費を使うことは出来ない。だから、人件費を多く使うためにはそれに見合う利益を上げる必要があった。ここに労働環境改善の難しさがあった。

他社との競争に勝ち抜くため、今まで一人一人に無理をさせて会社は成長してきた。労働環境を改善することで、その成長は止まるのではないかと心配する声もあった。

しかし常務は、会社はなんのために存在するのか?それは働く社員の幸せのために存在するのではないかという考えをもっていた。

そんな常務と会社の飲み会で話をする機会があった。そこで常務の考えを知ることが出来た。常務は社長の身内であり、とても会社を愛していた。

愛しているからこそ、従業員が誇りを持てる会社にしたいそうだ。常務は夢を語ってくれた。

「私には夢があるんです。何年かかるか何十年かかるか分からない。けれど、将来うちの従業員が誰かに『どこで働いてるの?』と聞かれた時に、うちの会社の名前をだしたら、『へぇー羨ましいな』と言われる会社にしたいんです。こんなことを言うと失礼かも知れないけれど、うちの会社の従業員はみんな大した学歴がない人ばかりです。それは私も同じです。この不景気で人が羨む会社に入るのは、とても難しいと思うのです。だからこう思うんです。人が羨む会社に入れないのなら、今勤める会社を人が羨む会社にしたい。そのためには働きやすい環境が必要なんです。従業員が誇りを持つにはその環境が必要なんです。」と。

常務の言葉を聞いて嬉しくなった。上司が働きやすい環境を考えてくれている。それが私に大きな安心を与えてくれた。