ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

「センスのないやつは辞めろ」社長の言葉に7年頑張った私は絶句!この言葉の真意は?

もっと大きく稼ぎたい

20代前半、私は脱サラをし、防水職人になりました。学歴に関係なく実力でのし上がれる。そんな世界にあこがれたからです。

求人誌に書かれていることは本当のことですか?

求人誌には日給1万2000円~手に職を付けて独立後は月給50万円可能と書かれていました。面接時に親方(社長)にどれぐらいで独立が出来るのかを聞くと「独立は早いやつで3年、俺は5年かかったけど、真面目にやれば報われる」と笑いながら答えてくれました。

職人の世界は夢と希望に輝いていました。

その頃の関西は大規模開発の現場が沢山ありました。
京都駅ビル
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン
大阪シティエアターミナル
関西国際空港

その他にも有名な建物の現場に私たちは入り、作業をしました。自分たちがした仕事が地図に載る。とても誇りに思えてきました、

職人の仕事はとても魅力があります。

職人の仕事の最大の魅力を一つ挙げるとするならば、自分の腕がどんどん上がる。そこに喜びがあるように思いました。どうせやるなら「この人じゃなきゃ・・・」というレベルの職人になりたいと思いました。

そして、トントン拍子に仕事を覚えていったのですが・・・

最初は簡単な仕事からスタートで、どんどん難しい仕事を任されるようになりました。しかし、最も大事な最後の仕上げはなかなかさせてもらえませんでした。

仕上げというのは最も技術を必要とされる仕事です。仕上げの出来次第で、上手い、下手くそと評価がされる部分なのです。最後に目に見える部分なので雑には出来ない作業です。

仕上げをやらせてもらえない。その理由とは

一つの現場に複数の職人が一緒に仕事をするのですが仕上げの仕事はその中でも一番出来ると周りが認めている職人がするというのが暗黙の了解でした。

見て盗むと良く言うが簡単なことではないと思いました。

時折ではあるものの、ベテランの職人から「ちょっとやってみるか?」と言われ仕上げをさせてもらえる時がありました。先輩が「こういうふうにするんだ」とお手本を見せてくれました。

見ていると、とても簡単そうにするのです。これぐらいなら自分にも出来る。そう思っていざやってみるととても難しいです。昔から「技は見て盗むもんだ」とは良く聞く言葉ですが、見て盗むのは難しい。そう思いました。

チャンスを与えて欲しい。それでなければ腕は上達しない。

見て盗むのは難しい。先輩のお手本を見て、再現しようと思っても、微妙な角度やタイミングの違いで上手くいかない。でも最初は上手くいかなくても、やってるうちにコツのようなものを掴んで上手くいくものです。

しかし、めったにチャンスは与えてもらえません。たまに「やってみるか?」と言われ、その時に上手く出来なかったら、その次のチャンスまで我慢しなくてはいけません。その我慢をしている期間にせっかく掴んだ感覚を忘れてしまいます。

そんな状態が何年も続きました。まったくチャンスがないわけではなく、たまにチャンスがくる。しかしたまにしかないから自分の腕はなかなか上達がしなかったのです。

教えない。チャンスをくれない。これは意地悪なのか?

職人の世界には「丁寧にゆっくり人を育てよう」という空気はありません。現場には納期というものがあり、最低今日はここまではしないといけないと追い込まれています。つまり急いでいます。

2人の職人がいてて、どっちに仕上げをしてもらおうか?となった時は出来る方にやってもらうのが普通なのです。出来ない人に練習をさせて成長させてあげるという余裕はないのです。

教えるよりも自分でやった方が早い。そんな先輩たちに自分は腹を立てました。自分のセンスのなさを棚にあげて腹が立ちました。

教えないのは技術をもったいないと思っているのか?教えて後輩に抜かされるのを嫌がっているのか?そんなことまで考えました。

何年も何年も自分の立ち位置がなかなか変わらない辛さを感じました。

めったに仕上げのチャンスがもらえません。これはみんな同じだと思います。しかもめったに来ないチャンスで上手くできなかったら「こいつはセンスがない」と思われてさらにチャンスが遠ざかります。

実は私がそんな状態でした。同じ時期に入った人や後輩の中で、センスがいい人は上手く先輩の技を見て盗み、少ないチャンスをものにして仕上げを任されるようになりました。

周りにセンスが認められたらどんどん場数を踏ませてもらい。さらに腕が上達します。私はみんなに取り残されたような気がしました。そして親方に「辞めます」と伝えました。

あれほど可愛がってくれた親方がなんでこんな言葉を?

「辞める」と言った時、親方は「そうか、お前って職人に向いてないもんな」「センスのないやつは辞めろと俺は思う」と言いました。私は悔しさのあまり言葉を失いました。

私は7年間頑張ってきました。親方にもプライベートで可愛がってもらいました。7年の月日が無駄に思えるような言葉をかけられて泣きそうになりました。

数秒間の沈黙があり、呆然とする私に親方は言いました。「何もお前が悪いという訳じゃない」「この世界は10人採用しても3年後に残ってるのは1人。そのうちの10人で一人前になれるのは1人。さらにその10人の中から親方になれるのは1人だからだ]

自分だけが努力をしている訳じゃない。

やる気というのは必要最低限のものです。夏は滝の様な汗が流れ、冬は手先がちぎれるような寒さを感じる。先輩からの厳しい言葉もある。やる気のないやつは辞めろの空気があります。

入って数日で辞める人も沢山見てきました。生き残った職人は皆がやる気をもっています。みんな一流の職人を目指して少ないチャンスをものにしようと努力をしてるのです。そんな中、センスを認められた職人だけが上にいけるのです。

これから手に職を付けて独立を考える若者へ

職人の技術はそう簡単には教えてもらえません。難しい仕事も簡単にはさせてもらえません。やる気満々で入ってきた若者が何年も何年も同じ仕事ばかりで、「こんなはずじゃない」と辞めていく姿を沢山見てきました。

しかし、そんな厳しい生存競争に勝ち残った本当に出来る職人はとてもカッコいいと思います。手に職をつけて独立。とても夢のある言葉です。でも、そう簡単じゃないですよ。