ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

20年後も印象に強く残るのはお金持ちの成功者ではなく見るものを感動させる一流の仕事人である

関西一の巨大プロジェクトに心が躍りました。

手に職を付けて独立を夢見て職人になった時、最初に配属になったのは、京都駅ビルの工事現場でした。とてもとても巨大な現場。私たちが入った時期は鉄骨ができた段階で、あと2年で完成すると聞かされました。

「え?あと2年でこんな巨大な建物が本当に完成するの?」と思うほどの大きさでした。そして、1000人の職人が集まる朝の朝礼はとても圧巻でした。

こんな男になりたい。

私は、その現場に完成までの2年間いました。その間、入れ替わり立ち替わり応援に来られる職人たち。ベテランから入ったばかりの新人まで様々な職人達と一緒に仕事をしました。

中でも印象に残っているのは「この人でなければ」というレベルの凄腕の職人たちとの思い出です。この人にこれをやらしたら誰も勝てない。この人は誰よりも早い。この人は誰よりも上手い。そう皆から尊敬される職人です。

仕事は見て盗めと良く聞く言葉ですが、一流の職人の技術というものは、そう簡単に見ても分かりません。目にも止まらぬスピードがあります。しかもそんな人は簡単には教えてくれません。

腕にプライドを持ち、みんなから尊敬される一流の職人たちを目にして、いつかは自分もこうなりたい。本気でそう思いました。

仕事は出来ないが、なぜか可愛がってもらえた私

私は、現場の責任者の人にとても可愛がられました。その責任者は親会社の部長です。仕事が終わったら一緒に飲みに行ったり、本社に連れて行ってもらったりしました。

下の者に仕事をさせて、のんびりくつろぐ下請けの社長達

私を可愛がってくれた責任者は仕事が終われば、大抵そのまま直帰するのですが週に2回ほどは本社に帰りました。「お前も付き合え」と言われ、なぜか私も一緒に本社に行きました。

現場ではいろいろな職人たちが応援に来るのですが、本社で見かける職人たちはほとんど現場で見かける顔ではありませんでした。それは、沢山の従業員を雇う親方だからです。

「あの親方は年収2000万ある」
「あの親方は従業員を100人雇ってる」
「あの親方はフェラーリに乗っている」

そんな噂を聞く、成功した親方達は本社に何をしに来るのかといえば、釣りの話やギャンブルの話、女性の話など、仕事と関係ないことを話して、本社の営業と仲良くなり、そして大きな仕事をもらって帰っていきます。

影で下手くそと言われる成功者た

そんな成功者たちを、現場の出来る一人親方たちは馬鹿にしていました。「あいつは下手くそだ」「あいつと一緒に仕事を昔したことあるけど、とてものろまで使えないやつだ」と。

しかし、下手くそでも、仕事をどんどん取ってくる来る能力。下の者に仕事を与えて育てる能力があるから、会社を大きく出来ているのだと思います。

ヨーイドンで一人親方と、現場にめったに出ない成功した親方と並んで作業したら、圧倒的に一人親方の勝ちだと思います。しかし、収入には雲泥の差をつけられてるのも事実です。

職人の世界では10人入って3年後に行き残るのは1人。その内の10人で一人前になれるのは1人。その内の10人で独立出来るのは1人。その内の10人で会社を大きく出来るのは1人と言われていました。

どっちがかっこいい?

超一流の頑固な一人親方と、下手くそと言われても会社を大きく出来る親方。私は両方と仲良くさせてもらいプライベートでも付き合いました。両方を見て思うのは、どちらもかっこいいと言うことです。

しかし、あれから20年経っても、そのカッコよさが記憶に残っているのは超一流の頑固な職人です。惚れ惚れするような手際の良さ、なんでこんなことが出来るの?とビックリするような完璧な仕事ぶりは、今でも夢に出てくるほどです。

どちらがカッコイイか?個人的な意見では仕事を沢山とれる成功者よりも、一人親方で「この人でなければ」という凄腕の職人の方が、かっこいいと思っています。それは見る者を感動させるほどの技術を見ることが出来、そのカッコよさが私の記憶に残り、一生忘れないと思うからです。