ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

上司が斬新なアイデアを否定するのはワクワクしたものを感じないからである

勤め先の食品スーパーの本社で販売促進の会議があった。その時の議題が今年のハロウィンの売り場をどうするかだった。グループごとに分かれて、みんなで意見を出し合った。

その後、代表者が前で発表することになった。発表内容は、売り場のテーマ、ターゲットにするお客様、どんな商品を置いてどんな形の売り場にするかだった。どの代表者も、ターゲットは子供や若いカップルにし、商品の選択も売り場も去年と大して変わらないものを発表した。正直面白くないと思った。

私たちは違う。人と違うことを発表してみんなをあっと言わせてあげようと思っていた。

そして私たちのグループの番になった。代表者は私だった。私たちは話し合って今までの常識を覆すハロウィン売り場を考えた。それを誇らしげに語った。

テーマは「シルバーハロウィン」そしてターゲットは六十歳以上のシルバー世代。置く商品は年配の方が好みそうな、かぼちゃの煮物やせんべいだ。売り場の作りは和風をイメージしたものにした。なぜこのような企画にしたのか?それは日本でハロウィンが定着してきたのは最近のことで、若い世代が中心となってこのイベントが盛り上がっているからだ。年配の方にはまだまだ定着されていないのだ。ここに大きな需要があると私たちは思いこのアイデアを出した。

しかし、上司から返ってきた言葉は「まるで夢物語だね」。この言葉に腹が立った。若い世代にはハロウィンは定着してる。だったら黙っていてもハロウィンに関する商品は買ってくれるだろう。ここはハロウィンとはどういうものかあまり知らない世代の方に商品を買ってもらうようにした方が売上は上がるんじゃないか?そう思い反論した。

上司は言った。「面白い意見だと思う。今までにないアイデアだと思う。毎年同じような話し合いをしているが、あまり前年と変わらない売り場になってしまっている。マンネリ化している。しかし私たちは話し合って、意見を出し合って今の売り場の形を作ってきた。世間のハロウィンのイメージは「仮装」だ。子供や若者たちが仮装を楽しんでいる。このイメージはとても大きいものじゃないか?今までの常識を覆そうとする前向きな気持ちは評価する。しかし、今までに世間の人々が積み重ねてきたハロウィンのイメージ。そして毎年私たちが意見を出し合い、積み重ねてきたものの形の大きさと見比べてみるべきではないか?見比べて見て、その新しいアイデアは今まで積み重ねてきたものの大きさに勝てるのか?」

そう言われて、何も反論出来なかった。しかし、その後もやもやとした気持ちが生まれた。シルバーハロウィンは斬新であり、成功すれば大きな需要を取り込むことが出来ると思ったからだ。しかし、上司が夢物語だと言った気持ちも理解出来る。
組織の中では結果を求められるからだ。面白そうだからやりましょうという単純な考えではないからだ。

毎年、ハロウィンの時期は若い世代を中心に大きな売上が見込める。この大きな売上を無視するほどシルバー世代に力を入れる必要があるのか?そして成功出来るのか?考えてみれば、やはり難しい。

今までにない需要を掘り起こすのはとても魅力的だ。しかし容易ではないこともある。問題は実現の見込みがあるかどうかだ。

上司が夢物語だと言ったのは私の企画が甘かったからだ。斬新な企画も現実的に実現する見込みを伝えることが出来なければ。ただの思いつきだ。

逆にシルバーハロウィンの企画が実現の見込みが大きく感じられるように練られていれば上司からの評価も変わったと思われる。

斬新な企画は自分一人が心の中でワクワクしているだけでは駄目だ。相手の心もワクワクさせて、「やってみたい」と思わせるものでないと夢物語に終わるのだ。