ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

辛い仕事に心が折れそうになった時はあの世界よりはましと思えることが大きな力になる

会社を辞めて、居酒屋で独立したいと思い居酒屋の店長に、弟子入りをお願いした。店長から、修業の厳しさを聞かされた。
友人や家族は反対した。「会社員から居酒屋で独立するのは大変だ。やめておけ」と。しかし、一国一城の主になりたい。その気持ちがあるからと覚悟を決めた。
朝の10時から店長の奥さんに仕込みを教えてもらった。そして17時から営業が始まり、午前2時に営業が終わる。閉店後の片付けを終わらし、家に帰るのは4時になった。
家に着くと、寝ること以外何もしたくなくなった。テレビも新聞も見る元気がない。世間の心配をしている余裕が私にはなかった。その頃、総理大臣が交代したと聞かされて「いつの間に?」と驚いたほど自分の事だけで精一杯だった。
とにかく眠たい。たとえ5分、10分でも目をつぶりたい。仕込みの最中、一人になれる時間があった。少しぐらい横になってもばれないと思った。しかし、開店の準備を間に合わせないといけない。眠たい目をこすりながら我慢をしたのだ。
営業が始まると、すでに仕込みと開店準備で疲れ切っていた。だからと言って疲れた顔をお客様に見せられないのだ。だから、疲れた体にムチを打った。
店長は威圧感があり、とても怖かった。お客さんの前では笑顔でいるが私には、いつも怒っていた。とても小さなことで怒られた。寝不足で頭がくらくらする状態で閉店後に店長からの説教が始まるのだ。いつになったら終わるのか分からない説教に寝る時間がほとんどなくなった。
毎日、毎日怒られる修業が嫌になった。店長が近づくたびに恐怖を感じるようになった。
こんな地獄はもうたくさんだ。
 何度も何度も辞めようかと真剣に悩んだ。そんな私に先に独立を果たした兄弟子が声をかけてくれた。「私も、以前は飲食とはまったく違う仕事をしていたので、慣れない飲食の世界での修業に逃げ出したくて仕方がありませんでした。今、自分の人生を振り返ってもあの時の半年間の修業は一番辛かったと思います。もう二度とあの修業はしたくないと思っています。でも、その経験があったから、独立をした時の解放感がとても大きく本来大変なはずの独立後が楽に感じたのですよ」と言ってくれた。
 先輩も地獄を体験したのだ。その話を聞いた後は、先輩の姿を追いかけることが一つのやる気につながった。そして歯を食いしばりなんとか修業を終えた。
その瞬間の地獄から抜け出せた喜びは今でも忘れられない。
ついに自分の店がもてた。夢と希望であふれていた。さらに、周りから、あれほど大変だと言われていた居酒屋の経営が修業時代のあの辛さから見たら全然大変と思わなかった。
しかし、別の大変さが襲ってきたのだ。それはお客様が思ったほど来ないことだった。結局赤字が続き、居酒屋の経営は諦めたのだが貴重な経験にはなった。
修業時代の半年間に地獄を見れたのだ。寝不足の中、肉体的にも精神的にも追い詰められた思い出になったのだ。
さらに独立をした後の数カ月は体は楽だが、赤字が続き生活が成り立たなくなる恐怖を味わえたのだ。
もちろん、このような経験は誰にでもあるものではない。特に私の修業時代の辛さは時代錯誤なものだ。しかし、想像はすることは出来るだろう。辛い経験が少なくてもそれを想像する事は出来るのだ。
どのような職場でも人は多少なりとも不満を持ってしまうものだ。不満の種類は多種多様だ。そんな時には、あの世界よりはましと思う気持ちも強く生きるためには有効になるものだ。