ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

応援してやろうと言う周囲の気持ちを阻害する行為だ。

雇われるのはもう嫌だ。独立したい。居酒屋なら手っ取り早く独立出来るのではないかと思い、居酒屋の店長に弟子入りをして半年間の修業をすることになった。
 これは想像以上に大変だった。朝早くから夜遅くまで、ほとんど休みなしで頭がくらくらしてきた。そんな私に店長は毎日説教された。短い期間で独立させようとする親心からの説教だった。
 体が疲れた状態で、さらに、精神的にも追い詰められた。1分でも早く帰って寝たいと思った。しかし閉店後に何時間も店長の説教は続いた。
ある日、いつもの説教が始まった。「お前は会社員でも役立たずだったんだろ?」と言う店長の言葉に、「いえ違います。会社員ではちゃんと出来ていました」と反論した。
なぜ反論したのか?それは会社員時代、営業成績でトップをとったことがあるプライドがあったからだ。さらに店長の説教には、ただ頷くだけでは、「お前には意見がないのか?」と怒られるからだ。後になって考えてみると、もっとましな受け答えが出来なかったのかと悔んだ。しかしその時は、寝不足で考える力が少なくなっていたから、思ったことをストレートに言うしか出来なかった。
私の反論に店長は「お前は会社員を舐めているのか?」と怒った口調で言ってきた。私は、「そんなつもりはありません」と答えた。さらに、「お前はお客さんに対してもそんな口のきき方をするのか?」と言う店長に、正直に答えて何が悪いのかと思った。
そして説教は続いた。「お前は営業で1番になったことがあると言ったな?じゃあ何で辞めた?逃げてきたからじゃないか?成功していたら辞めてないはずだ。逃げたやつが、「出来ていた」という言う言葉を吐くのは喧嘩を売っているのと同じだ。お前は辞めて勝ったつもりでいる。そして会社員を舐めていないと言っているが舐めている。お客さんは楽しい酒を飲みに来ている。自分たちを舐めている奴の店には誰も行かない」
とても痛い所をつかれた。私は、会社を辞めた時に勝ったつもりでいた。会社員よりも独立をして商売をする方が上だと言う気持ちになっていた。
しかし、お客様あっての商売だ。居酒屋にくるお客様の多くは会社員だ。そんなお客様に対して勝ち誇った言動をすると間違いなくひんしゅくを買うだろう。
これはほとんど全ての職場で当てはまることだ。入ってきたばかりの新人が、「前の職場での自分の活躍を口に出すと多くの場合先輩から、「じゃあ何で辞めた?」と思われる。
例外はある。辞めた職場での活躍が喜ばれるのは前の職場での経験を生かした講師の仕事だろう。話を聞きに来るお客様は成功者から成功のノウハウを聞きたがっている。成功したことのない人から成功のノウハウを聞いても心に刺さらない。
そのような例外は別として、多くの職場での新人は、かつての職場での成功は自分だけの良き思い出として、心の中だけで取っておいた方がいい。
 多くの場合、前の職場での自慢を新人がすると可愛く思われない。応援してやろうと言う周囲の気持ちを阻害する行為だ。