ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

催眠商法1年目2話目

 

催眠商法の会社に勤めだして2日目。

 

「今日は売り出しの最も白熱した日だから」と言う理由で私は裏場に待機をさせられた。

 

商品を売る日に、なにも分かっていない新人は足手まといと言うこと。

 

しかし、私にもちょっとした仕事が与えられた。

 

裏場には商品が入った白い紙袋がずら~~と並べられていた。

 

社長の合図とともに売り出しが始まり、先輩社員が、裏場に駆け込んでくるから、その袋を渡すという段取りだ。

 

ちなみに、その袋には1箱4万円の健康食品が10箱入っているものだった。

 

マジか?この袋には40万円の健康食品が入っているのか?

それが、ざっと見ただけで80袋ほどあるぞ。

 

そんなに売れるのか?冗談だろ?

 

そして、昨日と同じように会場の中では社長の話が始まった。

 

話が進むにつれ、とんでもない盛り上がりになっているのが裏場からでも感じられた。

 

裏場にはもう一人、40代のベテランっぽいおじさんが私と一緒に待機していた。

 

小声で、「おい、熊君、そろそろだぞ、思いっきり忙しくなるぞ」と言ってきた。

 

緊迫した会場内の雰囲気が裏場まで伝わってきた。

 

会場内で社長のクロージング(売り出しの話)が始まったようだ。

とんでもない盛り上がりの中、「今からご注文をお聞きします」と社長が言ってすぐのこと。

一気に忙しくなった。

 

激しい音楽が鳴らされ

若い社員たちが、「こちらも10箱ご予約で~~~す」と叫びだした。

あちこちで「ご予約で~~す」の大合唱

 

それとともに、だだだだ~~~っと若い社員たちは裏場に走りこんできた。

 

「ハイ、10箱」「ハイ10箱」と必死で若い社員たちに40万円分の健康食品が入っている紙袋を渡していった。

 

もう無我夢中。

 

「はい、こちらも10箱」

「はい、こちらも10箱」

と会場内は若い社員たちの叫び声に飲み込まれたような雰囲気になっているようだった。

 

なんだ、この世界は?

心臓がバクバクしてきた。

 

若い社員たちの何が何でも10箱売るという気迫がビシバシ伝わってきた。

 

その後、営業が終わり、やっとみんなの表情も穏やかになってきたとき、社長が声をかけてくれた。

 

「どうだった?」

 

素直な気持ちを言った。

「すごいです。4万円の健康食品が10箱入っている袋があんなに飛ぶように売れるなんて、驚きです」

 

社長は

 

「はははは・・・実はな、昨日までは、みんな1箱か2箱しか注文してなかったお客さんなんだよ」

「でも、今日の俺の話で、みんな1箱よりも10箱買った方がいいと思って、10箱にしたんだよ」と言った。

 

驚いた。意味が分からなかった。

 

その1箱から10箱へ申し込みを変える話の持って行き方は後日知ることになるのだが、その時は不思議だと思った。なので・・・

 

「そうなんですか?まるで魔法みたいですね」と社長に言うと

 

社長は

 

「はははは・・・魔法か?そうだよな。まぁ、魔法みたいなものだな」と言った。

 

目の前で、40万円の健康食品がバンバン売れていった。
このからくりを知りたい。
知るまでは絶対に辞めない。

お年寄りを集めて高額な健康食品を売る催眠商法
その会社に勤めだして5日目ぐらいだろうか?

やっとお客さんの前に出させてもらえた。

 

 

店長が、お客さんの前で、「実は新入社員がおります。拍手でお迎えください」と大絶叫。

 

緊張しながら裏場から会場に出ていった。

 

100名ほどのお客さんが畳の上に座っていた。

 

※その会場はすでに会員さん(高額商品を買った人)だけを残していたからお客さんの数は100名に減っていた。

 

「熊です。よろしくお願いします」と元気よくあいさつした。

 

パチパチパチ・・・・と大きな拍手がもらえた。

 

店長から「えっ、熊さん?挨拶ってそれだけ?」と言われ、

会場内が笑いに包まれた。

 

前職は何をしてたの?

彼女はいるの?

好きな食べ物は?

 

どうでもいいことを聞かれて会場内は和やかなムードになった。

 

後で店長からは、「この場所は注文を取らなくていいよ」と言われた。

 

それよりも会場のムードとか、声上げを覚えてほしいと言われた。

 

注文よりも、会場に来たお客さんと仲良く話をしてほしいということだ。

 

営業の基本はまずは、お客さんに気に入れれることだと教えられた。

 

よし、そういうことならと必死でお客さんと話をした。

 

会場には、とりあえず家にいてても暇だし、あそこに行けば若い社員が話をしてくれるし、という感じで来ている人が多かった。

 

なるほど~

 

これはお客さんに気に入られたら勝ちという仕事なのかな?と思った。

 

実は、それも大事だがそれだけでは注文は取れない。

 

しかし、まだこの時はそのからくりを知るすべはなかった。

 

とりあえず、お客さんに好かれる。

そのことだけを考えた。

一生懸命、来ていただいたお客さんには、楽しく会話をしたと思う。

 

そうして、とりあえずの基本の中の基本の第一歩までは踏み出せたと思う。

 

しかし、その場所では1つも注文を取れなかった。

先輩は、20万円・30万円の健康食品の注文をバンバン取ってくるのに(涙)

 

それもそのはずだった。

 

宣伝販売は2か月ごとに、場所を移動する。

 

私が最初に入社した場所は1か月が経過した場所だった。

 

もうすでに、先輩社員たちとお客さんの間には深い絆がうまれていた。

 

新入社員がそうやすやすと割って入れるようなものではない。

 

お客さんはみんな優しかった。

しかし、買うとなれば話は別と言うことだ。

 

100円や千円のものではない高額の商品を買ってもらうのは、ただ仲が良くなったというだけでは難しい。

 

新人にも、ラッキーパンチは当たる時があるが、運命のいたずらか?私には当たらなかった。

 

最初に入った場所で僕は、まったく注文が取れなかった。

 

次こそはと思った。

2場所目

 

2場所目は、1場所目よりも大きく離れた場所に移動した。

みんな知らないお客さんばかり。

先輩・後輩、みんな知らないお客さんを相手にするということで条件は同じだ。

この仕事は普通の営業よりも楽そうだ。

例えば訪問販売なら、一から十まで自分一人で商品の説明をしなければならない。

しかし、この会社では、インストラクター(講師)が商品の説明をしてくれている。

私たちは、「欲しい」と言ってくれた人の注文を聞けばよい。


完全にこの仕事を舐めていた。


オープンして最初に売る高額商品は
28万円の健康食品だ

インストラクターがオープン時から、少しずつ話を前に進めながら

じわりじわりと、話に売りの匂いを出していく。

じわりじわりの間に、お客さんは、その商品が欲しくなってくる。

そんな気持ちが最高潮に達したとき

インストラクターはこう切り出す。

この地域の皆さんに喜んでもらいたい。
だから、本気で、メーカーと社長にかけあって、値段を下げます。

60万のところが
50万円も切って~
おお~~~~と歓声が上がる。
40万円も切って~~
ええ~~~と驚く

30万円も切る

もうこんなチャンスはないよ。
それでは発表します

28万円です。
うわ~~~すご~~い
パチパチパチ←強引に拍手をさせる

さぁ、今からご注文をお聞きしますので
社員さんに声をかけてくださいね。

ディスコ並みの激しい音楽とともに私たち社員は注文を取りに行く

ドキドキした。

他の先輩たちがあちこちで

「ご注文頂きました~~」
「は~~い、こちらも夫婦で2セットで~~す」
「またまたご注文で~~す、イヤッホ~~」
ご注文が取れたことを叫びまくる。

その中には、嘘の叫び声もある。
本当と嘘が入り混じる。
彼らは嘘と呼ばずに演出と呼んでいた。

とにかく売れていることをアピールする。

私は、それまで興味をもってくれていたお客さんに声をかけていく。

「どうですか?」
 

 

 

 

「・・・・」

完全に無視された。

 

「あのぉ~~ご注文しときますか?」

「・・・・・」

クビを横に振られ、手を振り振りいらないジェスチャーをされ気持ちは焦りまくった。

 
全然注文が取れない(涙)

 

どのお客さんからも無視。

 

あれだけ仲良く世間話をしてたのに(涙)

みんなから無視された。

 

結果、私は契約ゼロ。

 

営業が終わり、結果報告。

 

先輩から

「3件です」

「4件です」

 

そして、私は

 

「申し訳ございません。ゼロです」

 

みんな暗かった。

 

全員の注文数を合わせても10件だった。

 

催眠商法には大きな経費が掛かっている。

客寄せに、日用品を配るなど、それまでに多額のお金をかけている。

 

10件では赤字。

 

さらに次の日、お客さんは減っていた。

 

売り出しが始まると、勧められる。

 

買いたくないお客さんは逃げる。

 

そんな中でも先輩はぽつぽつと注文を取り

 

「ご予約で~~す」と大絶叫

 

私も彼らが演出と呼ぶ嘘で、

 

「ご注文でーす」と大絶叫

 

先輩の言う通りしているのにまったく注文なんて取れない

 

どうなっている?

 

裏場ではみんな暗かった。

というよりも、誰も店長に近づかなかった。

 

店長は、この場所で初めてオープンの話を任せらていた。

 

その初めての場所でずっこけたのだ。

 

このオープンの大勝負の後は

 

社長が来ることになっている。

 

店長の顔は、完全に青ざめていた。

 

入社したばかりの私も、これはヤバイと思った。

 

何とかしなければと思った。

 

焦った。

 

そこで目についたのはオープンの時から何も買わずに来ている
がたいのでかい見た目60代のおじさんだ。

「ぜひとも申し込んだ方がいいですよ」

と、一生懸命に勧めたが、おじさんんはニヤニヤするばかり。

私の中で何かがプッツンした。

「ここは宣伝会場ですよ」
「買ってもらわわなきゃ駄目ですよ」


強い口調で言ってしまった。


その時だ。いきなりおじさんは立ち上がり

「お前、誰に向かって物言うとるんじゃ」

 

 

上司が飛んできてくれた。

 
「おい、こいつは、買わなきゃ来るなと言っとるぞ」
「そんなことは言っていません」
 
上司は「お前は裏に下がっておけ」
 
「わしは〇〇組におったんじゃ。なんならここで入れ墨見せたろか?」
 
「まぁまぁ、旦那さん、落ち着いて・・・」
 
私が裏に下がっている間に上司がなんとかご機嫌取りをしてくれた。
 
会場内はし~~んと静まり返った。
 
生きた心地がしなかった。
 
売れていない最悪のムードをさらに最悪のムードにしてしまった。
 
上司には正直に話した。
 
焦って口調がきつくなっていたことを。
 
「次からは気を付けな」ですんだ。

 この時の売り出しは散々な結果に終わった。

 
店長も先輩も裏場では暗かった。
 

ちなみにオープンして最初の高額商品の売り出しだ。
 
最初の高額商品の結果次第で、その店の運命は大体決まる。
 
この場所はもう成功しない。
 
早めに違う場所に移動するかもしれない。
 
店長は完全に怒りでピリピリしていた。
 
誰も店長には近づかない。
 
最初の大売り出しが悲惨な結果になったことについて店長は皆の前で
 
「こうなったのは全て俺の責任です」と言った。
 
私の元やくざを怒らせたことには一切触れなかった。
 
でも、「休み明けは社長が来る。そこで再起を図る」と店長は言った。
 

帰り道同じだった先輩と話した。

 
「熊さんは社長の話を初めて聞くんだね」
「多分、社長なら、この最悪なムードを変えてくれると思うよ」
 
と言った。
 
嘘だろ?と思った。
 
お客さんが100人ほどしか残っていない会場で
しかも買っていない人の方が多いという地獄絵図だ。
 
もう、これは終わっているだろ?と思った。
 
そんな中私は見た。
 
社長の起こすミラクルを・・・
 

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11月2日発売予定です。全国の書店様にてご予約ご購入ができます。
身近な人を守るために知っておきたい催眠商法の現場を元社員が詳細に明かします。