もう諦めた方がいいと気付くかどうかは、いかに他人目線で自分を見つめられるかによる
大好きだった彼女に振られた。理由は彼女が憧れだった職場の先輩と付き合うことになったからだ。最初はこのことが信じられず、どうにかして彼女の気持ちを取り戻そうと努力をした。
最後に会った時、「もう連絡をしてこないでほしい」と言われたが諦めきれずに連絡をした。
「もう一度だけチャンスを下さい」とお願いしたり、「あなた無しでは生きられない」と同情をひこうとしたり、「あなたを好きな気持ちは誰にも負けない」とアピールしたり、「あなたのためならどんなことでも頑張れる」と決意を見せたりと、あらゆる角度からメールをした。
なぜなら一度は本気で愛し合った相手であり、気持ちが少しは残っているだろうと思ったからだ。1%でも復縁の可能性があるのならやるだけのことをして自分で納得したかったのだ。
自分の本気をぶつければ、きっと彼女は私以上に愛してくれる男はいないことを分かってくれるはずだ。そうすればきっと考え直してくれるはずだと思ったからだ。しかし彼女は私からのメールにほとんど返信してこなくなった。返信してきても、「もう終わったことだから諦めてください」という内容になった。
そんな状態だったため、仕事にも身が入らずに頭の中はどうすれば彼女が自分のことを分かってくれるのかという気持ちだけで一杯になっていた。
職場の同僚達はそんな私を見て、「いい加減に諦めた方がいい」と言ってくれた。同僚達がそう言ってくれるのは私のことを心配してのことだが「お前たちに俺の何が分かる」と言う気持ちになっていた。こうなったら彼女の職場で待ち伏せをしようかとも思った。
そんな心理状態でいてたある日の朝。散歩をしていると、目の前に30代ぐらいの女性が歩いているのが見えた。すると、いきなりトラックが前に止まり、50代ぐらいの男性が降りてきた。そして、男性は女性に近づき、腕を掴んで引っ張った。女性は「いやー、助けてー」と叫んだ。
いきなりの事で目の前で起こっている出来事が理解出来なかった。しかし、周りに人がいなかった。私が助けなければこの女性は男性に連れて行かれると思った。勇気を出して、男性に近づき「何をしているのですか?」と声をかけた。すると男性は「ほっといて下さい。私たちは夫婦ですから」と返した。この言葉に私は一瞬ひるんだ。夫婦喧嘩に他人である私が首を突っ込んでいいものかと思ったからだ。
しかし、女性に「本当に夫婦ですか?」と聞いてみた。すると「以前に夫婦でしたが今は別れて他人です」と返ってきた。その後も、男性はしつこく女性の腕を引っ張っていた。
私が「嫌がっているのでやめてあげて下さい」と言うと男性は「こっちには話があるんです」と返してきた。
「何の話か分かりませんが、ここで話をしたらいいじゃないですか?何も腕を引っ張って連れていくことはないでしょ?」と言う私に男性は「彼女が話に応じてくれないんです」と言った後、女性に「ほら、お前が話を聞いてくれないから変に思われてるだろ?」と言った。
これに女性は「もう充分に話したじゃないですか?もう付きまとわないでください」と言った。
ここで状況が想像出来た。男性は別れた妻に未練があって話がしたいと思ったのだ。しかし女性にはもう気持ちがないのだ。はたから見ていて男性が何を話してもよりを戻すのは無理だと言うのは火を見るよりも明らかだ。
しかし、他人である私がはっきりと無理と言っていいものか?と言うよりも1%の可能性にかける男性の気持ちが痛いほどその当時分かっていた。
その時、一人のおばあさんが近づいた。おばあさんは「お兄さん、恥ずかしいからやめときなさい」と男性に語りかけた。
「女性は気持ちが離れたらもうおしまいなんだよ。もう終わったことなんだよ。もう元に戻れないことなんだよ。やり直すのは無理なんだよ。無理なのを受け入れることは人生で大事なことなんだよ。彼女はもう手の届かないところにいるんだよ」
男性はおばあさんの話を聞いて帰って行った。なんだか自分のこれからの姿を見ているようで、ここで目を覚まさなければいけないと思った。