ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

「そっちが先に謝れよ」の感情に支配され謝れなくなっても気遣いで仲直りは出来る

「雨が降ってきたから急いで外の荷物を倉庫に入れてくれる?」と同僚から内線で連絡があった。外に出て見ると、どしゃぶりの雨に納品された荷物が濡れていた。
これは大変だと思い、急いで手当たり次第に倉庫に荷物を押し込んで行った。すると、同僚が近づいてきた。私は思った。「他の用事で手が離せなかった同僚の代わりに私が倉庫に入れて行っているのだ。感謝の言葉ぐらいはかけてくれるだろう」と。しかし、怒った顔で、「適当に押し込まないでくれる?ちゃんと考えて入れてくれる?」と言われた。
いきなり感情をぶつけられて腹が立った。なので言い返した。
「あなたに『急いでくれ』と言われたからやってるんだよ。そもそもこの荷物の大半はあなたの担当しているところの商品でしょ?どれが売り場に出しやすい商品かどうかなんて私に分かるわけないでしょ?」
 私の言葉に同僚は、「もういいよ。もう熊さんには何も頼まないよ。だからどいてくれる?後は私がするから」と言った。これ以上口論しても仕方がないと思い私はその場を去った。
 その後、同僚とすれ違っても、お互いに険しい表情で冷たい態度を取るようになった。しかし、これからもずっとその同僚とは一緒に仕事をしていかなくてはいけないのだ。このままでは駄目だと思った。
 そして、「あの人が先に謝ってくれないかな?」と言う気持ちが生まれた。後で考えたら、感情的になった私にも非があると思い謝った方がいいかもしれないと思ったが、同僚の非の方がどう考えても大きいように思えたのだ。
 お互いに感情的になった時はどちらかが折れて「あの時はごめんなさい」の一言で関係の修復が早くなるものだが、「先に謝りたくない」という感情に支配されてしまい謝ることを心が拒絶するようになって行ったのだ。
 「どうしよう?」と悩み、時間だけが過ぎて行った。そんな時、あることに気がついた。その日は同僚の抱え込んでいる仕事の量が多かった。なので、とても忙しいようで手が回っていないように見えた。そこで私は同僚に近づいた。
出来るだけ明るい声で同僚がするべき仕事を指差して、「これは私がしますね」と言った。同僚は「え!いいの?熊さんも忙しいんじゃないの?」と言った。私は「こっちも忙しいけれど、あなたの方が大変だと思うから大丈夫ですよ」と返した。
ここで同僚は、「ありがとう」と笑顔になってくれた。同僚も「このまま、いがみ合っていたら駄目だと言う気持ちでいてたのだろう。それからは、元のお互いに気持ち良く協力出来る関係に戻った。
 本来であれば、自分から素直に謝れば簡単に関係は修復出来たかも知れないことだ。しかし、相手の非が自分の非よりも大きく見えて仕方がない時、どうしても謝りたくない感情に支配されてしまうことがある。
 そんな時は「どうしよう?」という悩みを捨ててはならない。悩むと言うことはこのままでは駄目だと相手との関係を元に戻したい気持ちがあるからだ。相手を大事な仲間だと分かっている証拠なのだ。
 その気持ちを捨ててはいけないのだ。「先に謝れよ」と思っていてもそう簡単に相手は謝らないことは多々ある。しかし相手を思いやる行動によって、「ごめんさない」の言葉はもらえなくても「ありがとう」の言葉はもらえるのだ。