ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

「余裕です」の言葉を余裕のない職場で口に出すと自分の器以上の仕事が与えられる

「忙しい」「しんどい」はなるべく言わない方が良い。口に出すことでそのストレスが大きくなり、周囲からの印象も決して良くないからだ。では逆に「余裕です」は沢山言った方がいいのかと疑問に思った出来事がある。
後輩君の口癖は「余裕です」だ。体が千切れそうなほどの忙しさを感じつつ「忙しい」が口癖の社員が多い中、彼のポジティブな口癖は新鮮に聞こえた。
そんな後輩君が新しい店のオープニングスタッフに選ばれた。このオープニングスタッフは、毎日日替わりで応援に来る他店の社員よりも早く出勤し、遅く退勤するのだ。さらにオープンしてしばらくは休みがない。オープン月は通常よりも多くの給料がもらえるが、その分とても大変なのだ。
だから私は応援に駆けつけた時に後輩君に「忙しそうだね。全然休めていないんじゃないの?」と声をかけた、彼を心配し、彼に大変だと思う気持ちを吐きだしてもらうことで多少でも気持ちを楽にしてもらいたいと言う気持ちがあった。しかし後輩君はあいかわらず「余裕です」と返してきた。
そんな後輩君と久しぶりに本社での勉強会で会うことが出来た。彼に聞いて驚いた。店がオープンしてもう半年以上になり余裕が出てきているはずなのに、休みの日もやり残した仕事をしに半日だけ出て来たりで、まともに丸一日休むことは少ないそうだ。
これは流石に余裕じゃないだろうと思った私は「大丈夫?」と聞いてみたが「余裕ですよ」と返してきた。
しかし、彼から納得いかない気持ちも聞くことが出来た。それは、いつも休みの日に出てきて自分のやり残した仕事をする中で、周囲の忙しさに見てられない気持ちになり、周囲の仕事を手伝うようになり、それが周囲から、当たり前のように思われてきているそうだ。    
そして久しぶりに本当に丸一日休んだ時にアルバイトから「あれっ○○さん。昨日は一回も出てこられなかったんですね?」と言われたそうだ。
この話を聞いて私は思った。私は、休みの日はしっかりと休むタイプなので、めったに休日に店に顔を出すことはしない。店に顔を出すと、「あれも出来てない。これも出来てない。見てられない」と手伝いたい衝動にかられるからだ。そんな私が店に出ると後輩君とは逆に「あれっ熊さん。休みなのに出てきたんですか?」と心配されるのだ。しかし、後輩君は休んだら逆に心配されるのだ。
この差は大きい。自分の大変さを当たり前と思われるよりも、心配や共感をしてもらうことで多少は気持ちが楽になるからだ。
後輩君の話によると、別に好きで出てきているから休みが潰れることに対しては仕方がない気持ちなのだが、周囲からそれが当たり前のように思われるのがどうも納得いかないようだ。
そんな後輩君に私は「気をつけなきゃ俺みたいになるよ」と忠告した。それは・・・
後輩君の店は先日、店長が交代した。その新しい店長に私はかつて痛い目に遭わされた経験がある。
「あれしてこれして」と全ての業務を丸投げして、何にも手伝ってくれない店長だった。妙に威圧感があることをいいことに、好き勝手にするのだ。それで、店が正常に機能しているのなら、それでいいのだが、完全に手が回っていない状態になり、仕方なく休みの日に出て来ても、仕事が追いつかなかった。それでも店長は手伝わずに「なんで終わらないの?」と無茶を言っていた。余裕がないことを理解してくれなかったのだ。
このような部下の大変さを理解しようとしない上司の下で余裕を見せるのは危険だ。
この話を聞いた後輩君は顔を曇らせていつもの口癖である「余裕です」を言わずに「本当ですか?」と返してきた。その時の後輩君の「これ以上余裕を減らされたくない」という表情を私は見逃さなかった。
相手の大変さを気遣う気持ちのない職場では「余裕です」と口に出すと周囲から「この人はまだまだ余裕なんだ」とどんどん仕事を与えられる。その結果自分の限界を超えた仕事量になるのだ。「余裕です」の言葉はとても前向きに聞こえるが、置かれた状況を考えた上で口に出さなければ痛い目に遭うのだ。