ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

「それって何の意味があるの?」と思う指示の中にチャンスが隠れている

会社勤めをしていると上司から、「それって何の意味があるのか?」と首をかしげたくなるような指示をされることがある。勤め先の食品スーパーでは、そのようなことが多々ある。そのうちの一つにお客様アンケートというものがあった。お客様の任意で、なにかのご意見があれば書いてもらいアンケートボックスに入れてもらうものだ。
そのアンケートにお客様が思う一番輝いているスタッフの名前を1名書いてくださいという欄が増えた。本部の上司が考えたらしい。理由はこれからどんどん近隣に競合のスーパーが出店してくるだろう。すると限られたお客さんの奪い合いになる。安さで今までは勝負が出来た。しかし、周りのスーパーもどんどん安く販売するようになった。これからは安さだけでは勝負が出来ない。いかに安さ以外の付加価値で勝負できるかが大事な課題だった。その付加価値の一つに従業員の接客能力の向上というものがあった。
そのためにお客様アンケートで自分の名前が多く書かれるようにみんな努力しなさいというのが趣旨だった。しかし、私は心の中で「それって何の意味があるのか?」と思った。本部の上司は現場を知らない。日々山のような仕事がある中で、そのようなことをしている暇なんてない。次から次にやってくる日常業務をこなさないと終わるものも終わらない。時間に追われる毎日だった。お客様アンケートなんかは後回しにした方がいいと思った。 
他の従業員も同じ考えだった。「そんなことをしても何の得にもならないよね」と皆で言いあった。そんなことをしても接客能力なんて高まらないと思った。自分の名前が書かれたアンケートなんて、お客さんに頼めばいくらでも書いてもらえる。そこになんの意味も感じなかった。他店の人達もそう思っているようだった。毎月店ごとにアンケートの枚数を報告するのであったが、どこの店も同じような枚数。少ない枚数だった。その枚数を見ると、本気で取り組んでいるようには見えなかった。いつの間にかとりあえず報告しておくという惰性での仕事になっていった。
そんな中、社員が全員集まることがあった。そこで社長がいきなり表彰式をすると言いだした。何の表彰式だろうと思った。それは、お客様アンケートで一番投票数の多い社員の表彰式だった。その投票数は頑張れば誰でも取れるんじゃないか?と思うような数字だった。いかにみんながやる気を出してないのかが分かる数字だった。
その表彰式が終わった後、社長から辞令が出た。その社員に下された指令は一般社員から主任になるものだった。社長は言った。「わが社は、頑張る社員を評価します。頑張れば報われる会社です」と。さらにその社員に、金一封が渡された。後で聞いたのだがその金額は10万円だったらしい。
その時私は残念に思った。このことを最初から知っていれば、頑張った。やる気を出せば簡単に出来たことなのに。後悔先に立たずだ。上司が決めたことで納得できないことは多々ある。しかし部下が「それは間違ってます」とは言いにくいものだ。だから心の中でそう思ったまま惰性でその仕事を受け入れることがある。しかし、その惰性が原因でチャンスを失うこともあることを知った。