ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

戦う姿勢のない上司が、自分がいなくても機能する職場を作るのは難しい

私が勤めている食品スーパーでは店長の異動が頻繁にある。店長を定期的に入れ替えることで、競争心を高めようとしているようだ。
 そうして何人もの店長の下で働いてきたが、つくづく思うのは、店が良くなるかどうかの一番のカギは店長ではないかということだ。なぜなら過去にこんなことがあったからだ。  
 新しく異動してきた店長は、あまり動かないタイプで、これに、みんなの不満が爆発した。「ずっと煙草ばかり行ってますよ」
「何時間も姿が見えないですよ」
「本当に、何をしてるのか謎ですね」
スマホばかりいじってますよ」
と言った不満だった。店長が売り場にいなくても店が回る状態が理想だと思うのだが、町の小さなスーパーでは大きなショッピングセンターとは違い、店長をフリーにさせるほど人件費に余裕はなかった。
私たち一般社員も、店全体のことを考えると、店長に多くの仕事を抱えこんでもらわずに余裕をもってもらいたく努力をしたが、あまりにも使える人件費が少なかった。
そのため歴代の店長は本部から要求される人件費の数字をオーバーしないように自ら身を粉にして動いていた。
あまりしてほしくなかった事だが、休みの日にレジを半日だけして帰る店長もいました。そうすることで大幅に人件費を節約していたのだ。
店長が動き回らなくても店が機能する状態にしたいが、現実的な人件費の問題で出来ずに残念な気持ちでいてた。
そんな、「店長にはあまり動いてもらいたくない」と思っている中で、本当に動かない店長が異動してきた。
それも、店のことを考えた上で動かないのではなく、戦う姿勢が欠けているから動かないのだった。仕事よりもスマホに夢中になっている人だった。
そのため売り場はガタガタになった。しかも店長は、レジに長蛇の列が出来ても気にせずにスマホの世界に旅立っていた。
腹が立った。こっちは必死に体が千切れるような思いをしているのに戦う姿勢が見えないからだ。
私たちが売り場で戦ってる間、店長としてのマネジメント業務で戦っているのならまだ分かるのだが、スマホの画面と戦っていたのだ。
戦う相手を間違っているのだ。だから、みんなのやる気にも影響が出てきた。
一応、店長はたまに売り場を見に来て、
「ここが出来てない」
「あれが出来てない」
と言ってくるのだが、歴代の店長と違い、多くのことを見落としていた。
私の目から見て、出来てない事だらけだった。手が回ってないから、本当に重要なところしか出来てなかった。
売り場に常にいてたら、気づくことがスマホの世界の住人には気づかないことなのだろう。気づかないから当然、指摘も出来ないのだろう。
手が回ってないのに何も手伝わない。従業員からの不満が爆発したが、その不満が諦めに変わっていった。
「ある意味楽できるね」
同僚の女性社員が私に言った。確かにその通りだと思った。
「店長はどうせ見に来ない」
「見に来ても、見るところは限られている」
そんな意識で、売上が上がるわけがない。売上がどんどん落ちてきた。店長はそれでも、、「ライバル店が近くにできたからと売上が落ちた」と本部に説明をしていた。
しかし、その説明では納得できないほど売上が落ちた。私の予想通り、店長は異動させられることになった。
「これからって時に分かってないよな」
店長は本部からの異動の指示に不満を言っていた。ライバル店が出来たら売上が落ちるのは当然だという考えだ。
さらに、本気でそう思っているのか不思議なほど自分に自信をもっていた。
「本部は1カ月、2カ月の短期的な売上しかみていない」
「これから、長期的な視点で店を良くしていこうと言う時に異動っておかしいよな」
どこからその自信がくるのか不思議だった。
しかし、私は余計なことは言わなかった。
店長の異動の報告に私は、社交辞令で残念そうな表情を見せたのだ。