ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

営業の感覚を掴むまでの期間は人によって大きく異なる

契約が取れれば取れるほど給料に反映される営業の仕事がしたくて、いくつかの会社を転々としたことがある。
最初にチャレンジした会社は訪問販売の会社だった。そのまま使えば契約が取れるというセールストークを丸暗記して営業をしたが、まったく取れなかった。先輩が見本を見せてくれた。私とまったく同じセールストークを使って契約を取って見せてくれた。まったく同じセールストークを使っているのにどうして先輩は契約が取れて私には取れないのか理解出来なかった。先輩はお客さんの心を摘む何かを持っているのか?その何かが分からない私は1週間たっても契約が取れなかった。
そして居心地が悪くなり辞めてしまった。その後就いた賃貸不動産の営業も結果をほとんど残せずに短い期間で辞めてしまった。しかし、営業の仕事をあきらめたくない私は公衆宣伝販売の仕事に就いた。
ここは会場にお客様を集めて、講師が商品の説明をしてアシスタントが注文を聞くという営業スタイルだった。商品の説明はすでに講師がしているから注文を聞くのは簡単だろうと思っていたのだが、扱う商品が健康食品、健康器具で価格帯が20万円から30万円する高額な商品だった。高額だから、なかなかお客様から注文が取れなかった。
入社して1カ月注文が1つも取れなかった。先輩社員は多くの注文を取っていた。私にはこの仕事は無理かもしれないと思った。そこの営業所の所長は、とても厳しくて、成績の悪い社員に「やる気があるのか?」と叱っていた。
しかし契約がまったく取れない私にはなぜか怒らなかった。後で聞いたのだが、社長が「あいつだけは辞めさせるな。1カ月2カ月注文が取れなくてもいい。長い目でみてあげろ。きっとあいつはそのうち化ける」と私の事を言ってくれていたそうだ。
2カ月たっても注文が取れなくていい加減に心が折れそうになっていた頃、社長が講師として営業所にやってきた。社長はお客さんの前で商品の説明をする前に私の話をしだした。母子家庭で育てられ、将来の夢は今まで苦労をして育ててくれたお母さんに家を買ってあげることだという内容だった。私は恥ずかしくて仕方がなかった。顔が真っ赤になった。そんな私の話はどうでもいいから早く商品の説明に入ってほしいと心の中で思った。    
しかしその話はとても長い時間され、商品の説明はほんの少しで終わった。その後、驚くほどお客様からの注文が私に集中した。仕事を頑張って一人前になって母親を安心させてあげたいと思っている私に対する温かい応援のようなものだった。その時の私は営業所で一番多くの注文を取った。
先輩達みんなが驚いた。私は何も変わっていない。社長が魔法をかけてくれたのだった。社長の魔法はその一回限りだった。しかし注文が沢山取れたという経験は私に営業の感覚を掴ませてくれた。感覚が掴めた私はどんどんコツやノウハウを身に付け成長していった。 
その後、沢山の後輩を見てきた。入社して数日で営業の感覚を掴む人もいれば3カ月かかる人、1年かかってやっと掴む人もいてた。人によってその期間は大きく異なっていた。 
営業の感覚を掴むまではとても大きな不安に襲われる。周りで早く掴んだ人がいるとなおさらだ。しかし、人は人だ。掴むまでの期間が違うだけで誰にでも掴むことが出来るのが営業の感覚だと思った。